| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-087 (Poster presentation)
雑食性哺乳類における食性の種内変異の理解は、対象種の採食戦略や環境変化への適応能力を理解する上で重要である。しかし、中型食肉目動物においてどのような要因が食性の種内変異に影響を与えるのかについては十分に理解されていない。本研究では、タヌキを対象に、内的要因(性別・血縁度)と外的要因(季節・周辺環境の違い)が食性の集団内変異に与える影響を評価した。
2022年の5月から11月にかけて、北海道奥尻島でタヌキの糞サンプル(n=271)を採取した。糞を洗浄し、残渣を用いてポイントフレーム法により占有率(%)を算出した。また、糞DNAを用いて排糞個体の雌雄判別および血縁度を推定し、GISを用いてサンプリング地点の周辺環境の違いを評価した。雌雄判別された265サンプルを用いてPARMANOVAにより食性の季節差(夏:n=137, 秋:n=128)および雌雄差(オス:n=148, メス:n=117)を評価した。また、個体識別された133サンプルを用いてMRM(multiple regression on distance matrices)により、血縁距離と周辺環境の非類似度が食性に与える影響を評価した。
糞分析の結果、タヌキは主に果実類と昆虫類を利用していた。PERMANOVAの結果、タヌキの食性は季節間で有意に異なるものの、雌雄間で有意な違いは認められなかった。また、MRMの結果、夏においては、周辺環境と血縁度による食性への有意な影響は認められなかったが、秋においては、周辺環境が食性に有意な影響を与えていることが示された。本研究の結果は、タヌキは個体の属性によらず、資源環境の変化に応じて採餌行動を柔軟に変化させていることを示す。これらのトロフィックポジションの柔軟性はタヌキの高い環境適応能力や生態系の安定に寄与しているかもしれない。