| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-089  (Poster presentation)

植食者はなぜ植物上で一定密度以上にならないのか:アブラムシを用いた検証実験【A】【O】
Why herbivores do not exceed a certain density on their host plants: verification experiments using aphids.【A】【O】

*赤星裕良(佐賀大学), 矢野文士(鹿児島大学), 太田一樹(鹿児島大学), 徳田誠(佐賀大学)
*Yura AKAHOSHI(Saga Univ.), Fumito YANO(Kagoshima Univ.), Kazuki OHTA(Kagoshima Univ.), Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

 昆虫は陸上生態系において最も適応放散が進んだ分類群のひとつであり、その約半数は植食性であるとされる。このような植食性昆虫の豊富さにも関わらず、自然界において植物が食べ尽くされることはごく稀であることから、植食性昆虫には天敵などによるトップダウン効果をはじめ、その密度を低く制御する要因が存在していると考えられる。植食性昆虫の中でもアブラムシは単為生殖による卓越した増殖能力を有している。本研究では、マメ科を寄主とするソラマメヒゲナガアブラムシ(以下、ソラヒゲ)を対象として、野外における本種の密度を制御している要因の解明を試みた。先行研究により、野外ではソラヒゲはカラスノエンドウを枯死させることはなく、種子生産にも負の影響を与えないことが知られている。室内の閉鎖環境でカラスノエンドウにソラヒゲを付けて維持したところ、ソラヒゲは植物体の地上部全体を吸汁して植物は枯死した。一方、野外での春の観察では、ソラヒゲはカラスノエンドウの茎の先端部や莢にのみ寄生し、植物体全体を加害することはなかった。また、カラスノエンドウが枯れる前に植物体からいなくなり、その後、近傍に定植したソラマメで増殖した。また、ソラマメ上でも茎の先端部にのみ主として寄生し、植物体を枯らすことはなかった。天敵であるテントウムシの飛来はソラヒゲの増殖率を有意に低下させることはなく、競争者であるマメアブラムシもソラヒゲが増殖中には低密度のままであった。
 一連の結果から、天敵や競争者、気温などの非生物的要因はカラスノエンドウ上でのソラヒゲの減少を説明できず、寄生されたカラスノエンドウにおける生理的変化などがソラヒゲの分散を促進し、植物体上での密度を制御していることが示唆された。室内の閉鎖環境では、分散後のソラヒゲの移動先がないため、再び元の株に戻って寄生し、結果的に植物を枯死させている可能性がある。


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