| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-092 (Poster presentation)
生物の分布や個体数密度は空間的に構造化されており,これは様々なプロセスが関わることで形成される.生物と環境の関係を正確に把握するためには,各プロセスに対応した空間スケールを特定し,そのスケールの下で推論を行う必要がある.従来の研究では,各種について単一の最適空間スケールを仮定し,候補空間スケールのバッファから抽出した共変量セットに対してAIC等によるモデル選択を行うことで最適な空間スケールを決定することが主流であった.しかし近年,生物は複数の空間スケールで複数の景観要素に応答していることが明らかとなり,従来の方法では不十分であることが認識されつつある.それに伴い,ベイズ的な方法で各共変量ごとの最適空間スケールを網羅的に探索するBLISS(Bayesian Latent Indicator Scale Selection)という手法が開発された(Stuber et al. 2017).BLISSは,各共変量ごとに候補空間スケールを指定するインデックスをカテゴリカル分布から抽出することで,各共変量の最適空間スケールの効率的な探索を可能にしている.本研究では,自動撮影カメラによる密度推定手法RESTモデルにBLISSを組み込み,房総半島に生息する哺乳類9種と主要土地利用の組について最適空間スケールの特定を行った.その結果,各種の個体数密度は複数の空間スケールに依存していることがわかった.例えば,シカは中スケール(1kmバッファ)内の市街地及び小スケール(100m)の植林地に,イノシシは小スケール(100-250m)の耕作地・常緑広葉樹林・植林地・竹林,中から大スケール(2.5-10km)の市街地・落葉広葉樹林に応答していることが示唆された.推定された最適空間スケールは分布・個体数・行動等の様々なプロセスを反映している可能性があり,個体数密度の規定要因への更なる洞察を可能にする.