| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-093 (Poster presentation)
マダラは最大体長1 mに達し、魚類や甲殻類などを捕食する一方海棲哺乳類などに捕食される中間~上位捕食者であるが、その捕食-被食の種間関係が自身や餌生物の個体群動態に及ぼす影響に関しての知見は限られている。本発表では、夏の胃内容物分析の結果と繁殖期を含む10~翌3月の生理学的指標を基に北海道太平洋沿岸マダラの個体群動態と餌生物の関係を考察した。
2016~2020年夏季に水産資源研究所・開発調査センターが実施したスケトウダラ音響トロール調査(第五開洋丸、海洋エンジニアリング株式会社)で収集したマダラ1090個体の胃内容物データを用いた(Wang et al. 2022)。この海域の優占種であるスケトウダラ、餌資源として価値が高いとされているマイワシとオオクチイワシの3種について、マダラの胃内容物からの出現確率とマダラの体長との関係をロジスティック回帰モデルで推定した。2010~2023年度に釧路・室蘭で購入したマダラ市場試料について、10~12月の肝臓重量比と11~翌2月のメスの生殖腺重量比(内臓除去重量を使用)を生理学的指標とし、GLMによって標準化したものを経年的に比較した。
マイワシやオオクチイワシではマダラの体長が40~60 cmで、スケトウダラではマダラの体長が60 cm以上となると被食率が高かった。2016年は特異的に小型魚もスケトウダラを捕食していた。60 cm以上のマダラの胃内容重量に占めるその3種の割合は2016年より他の4年間で高かった。肝臓重量比は2016年に低く、2017~2020年に高かった。メスの生殖腺重量比は2017年度に高い傾向にあった。これらのことから、上記3種を摂餌し得られたエネルギーと秋冬の生理学的指標との関連が示唆された。特に2017、18年度生まれのマダラは個体群豊度が高いとされており、その親魚の生理学的指標が良かったことが示された。今後、継続的に胃内容物を分析し、より長期時系列での食物網研究に取り組んでいく他、本種の親魚効果は未解明なため今後の研究が必要である。