| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-094 (Poster presentation)
昆虫における飛翔は、餌資源の獲得や新たな生息地への到達、捕食者からの逃避などに大きな影響を与える要因の一つである。特に、スペシャリスト植食者は生息地の植物群集の種組成が変化すると高い絶滅リスクにさらされるため、餌資源枯渇への対応として飛翔による移動を行うことが適応的であると考えられている。それにもかかわらず、現実には飛翔を行わないスペシャリスト植食者も存在している。本研究の対象種であるヨモギハムシは、ヨモギ類スペシャリストでありながら飛翔しない植食者として知られている。ただし、いくつかの地域で飛翔個体の観察が僅かに報告されており、地域個体群ごとに飛翔形質が異なる可能性がある。また、著者による予備調査より、後翅が退化していないにもかかわらず飛翔行動を示さなかったことから、飛翔筋の退化が飛翔を失わせていると考えた。そこで本研究では、ヨモギハムシの飛翔消失の要因を明らかにするため、生息環境の餌資源が豊富であるため飛翔能力を失ったという仮説のもと、野外調査を行った。まず、青森県、福島県、大阪府、兵庫県の集団を用いて飛翔筋の発達程度を調べたところ、著しい個体間変異が見られた。さらに、西日本の個体群ほど飛翔筋が発達している傾向があった。続いて、「餌が少ないほど飛翔筋が発達する」という予測の下、野外における推定餌資源量を飛翔筋発達程度と比較したが、予測のようなパターンは見られなかった。いっぽう、成虫密度が高い地域ほど、飛翔筋発達の程度は大きくなった。ただし、成虫集団の年間餌資源消費量を推定したところ、どの地域でも野外の資源量より少なかったため、豊富な資源量が飛翔筋を失わせたという仮説を反証するには至らなかった。これらの結果は、ヨモギハムシにおける飛翔消失には、餌資源量だけでなく成虫の個体密度が関係している可能性を示している。