| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-097  (Poster presentation)

発生時期の違いを考慮した水道水源林におけるクマ剝ぎ被害木の特徴の評価【A】【O】
Characteristics of trees bark-stripped by Asiatic black bear in water conservation forest: evaluation considering occurrence period differences【A】【O】

*石川拓海, 竹下和貴(東洋大学)
*Takumi ISHIKAWA, Kazutaka M TAKESHITA(Toyo University)

クマ剥ぎとは、クマ類が針葉樹等の形成層の採食を目的として外樹皮を剥ぐ行動のことであり、世界各地で森林資源に様々な損失をもたらしている。クマ剥ぎ被害を効率的に抑制するために、被害を受けやすい樹木の特徴の検討、特に樹木の成長(胸高直径)や樹種に着目した研究がこれまでに複数実施されているが、その結果には研究間でしばしば差がみられる。このような研究間の結果の相違は、クマ剥ぎ箇所の成長の停止や小径木の間伐作業などによって、被害木の相対的な位置づけ(採食物としての価値)に被害発生時と調査実施時の間で時間的ギャップが生じていることが一因である可能性が考えられる。したがって、クマ剥ぎ被害を受けやすい樹木の特徴を適切に評価するには、直近の被害木のみを対象とした調査が必要である。本研究では、ツキノワグマ(Ursus thibetanus)が生息する東京都水道局が管理する水道水源林内の一部の針葉樹林にランダムポイントを発生させ、各ポイントを中心とする20 m四方の方形区内の全ての針葉樹について、2024年のクマ剥ぎ被害の有無、樹種、胸高直径等を記録した。混合ロジスティック回帰分析により方形区間のクマ剥ぎ被害の発生率との関連要因を評価したところ、スギが優占している方形区の方が、スギ以外の針葉樹が優占している方形区よりもクマ剥ぎ被害の発生率が有意に高かった。また、方形区内の針葉樹の平均胸高直径や地表面の平均斜度は、クマ剥ぎ被害発生率と有意には関連していなかった。しかし、次に各方形区内で実際にクマ剥ぎ被害を受けていた針葉樹の特徴を検討したところ、樹種は被害率とは有意に関連しておらず、方形区内での相対的な胸高直径の大きさが正の関連を示した。以上のことから、ツキノワグマによる樹皮剥ぎは、スギ林を目指した移動とスギ林内での樹種を問わない大径木の探索という階層的な行動決定プロセスに基づいている可能性がある。


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