| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-098  (Poster presentation)

根室海峡と釧路沖において共通して発見されたシャチの個体について【A】【O】
Killer whale individuals found in common in Nemuro Strait and off Kushiro, Hokkaido, Japan【A】【O】

*向井亜美(総合研究大学院大学), 大泉宏(東海大学), 斎野重夫(無所属), 三谷曜子(京都大学), 中原史生(常磐大学), 北夕紀(東海大学), 幅祥太(葛西臨海水族園), 吉岡基(三重大学)
*Ami MUKAI(SOKENDAI), Hiroshi OHIZUMI(Tokai Univ.), Shigeo SAINO(No Institution), Yoko MITANI(Kyoto Univ.), Fumio NAKAHARA(Tokiwa Univ.), Yuki KITA(Tokai Univ.), Shota HABA(Tokyo Sea Life Park), Motoi YOSHIOKA(Mie Univ.)

 シャチ(Orcinus orca)はメンバー構成の安定した群れで移動する.日本近海では北海道東部海域の根室海峡(4〜7月)と釧路沖(10〜11月)で季節的な来遊があり,北海道シャチ研究大学連合(Uni-HORP)は個体識別などの調査を行っている。釧路沖に出現するシャチは漁業被害の原因にもなっており、その広域的な移動や海域利用を明らかにすることは、ヒトとシャチが共存する上で重要である。2022年までの個体識別調査で、釧路沖では105個体、根室海峡では500個体以上が識別されているが、両海域で共通して発見された個体は19個体にとどまり、さらに共通個体は根室海峡でこれまで数年おきにしか発見されていない。根室海峡における共通個体の発見は数・頻度ともに少ない一方、従来の調査は5、6月の10日程度と限定的で、来遊実態を過小評価している可能性がある。そこで本研究では調査期間を拡大し、2023年の4月下旬から8月上旬の32日間で個体識別を行った。識別には、Uni-HORPが撮影した写真に加えて、観光船ガイドから提供を受けた写真を使用した。
 2023年の根室海峡での調査において、計251個体が発見され、そのうち釧路沖でも発見歴のある個体は、これまでの最多である年間8個体を上回る20個体であった。新規の共通個体は7個体であり、これにより2023年までに根室海峡と釧路沖で共通して発見された個体は26個体となった。また、20個体のうち19個体で年内の再発見があり、再発見の間隔は、最短で3日、最高で35日であった。本研究から、釧路沖を利用するシャチが、従来の想定以上に根室海峡を利用していることが考えられた。国外の海域では、シャチによる漁業被害の広域への拡大が示唆されており、北海道東部海域においても今後、より詳細な海域間の移動を調べる必要がある。


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