| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-099 (Poster presentation)
北アルプス地域では、ニホンジカの分布域が拡大傾向にあり、2013年に初めて高山帯において雄ジカが確認された。長期間にわたるGPSテレメトリー調査により、一部の季節移動個体が高山帯まで利用することが示されている。当地域では、ニホンジカによる累積的な採食圧による高山植物群落への影響が懸念されており、低密度管理が必要だが、高山域での捕獲は困難であり、低標高地である越冬場所での捕獲を効率的に行うことが求められる。本研究は、北アルプス北部における、季節移動個体の冬季行動圏における生息地選択性を明らかにすることを目的とし、経年的な行動圏の変化、雌雄および昼夜別の生息地選択性を明らかにした。
解析個体は2012~2023年に北アルプス北部山麓においてGPSテレメトリーにより季節移動個体と分類された42頭(オス16頭、メス26頭)とした。全個体が夏季に北アルプス地域に滞在したのに対し、25頭は東側の低標高域に滞在した。2年以上追跡した個体の連続する2年間の冬季行動圏の重複率は、79±35%(n=25)で、このうち21頭は重複率が72~100%と高く、冬季行動圏への回帰性が高いことが示された。
雌雄および昼夜別の生息地選択性は、資源選択関数(RSF)を用いてそれぞれ解析した。目的変数はGPSデータを利用、行動圏内のランダム点を利用可能とし、植生や地形などを説明変数とした。ランダム効果として、個体名と年を設定した。解析の結果、昼夜ともに南向き斜面を選択し北向き斜面を忌避した。昼間は落葉広葉樹林、尾根、緩傾斜地、林縁近くを選択し、耕作地や谷を忌避した。夜間は草地を選択し尾根を忌避した。また、メスは昼間に草地を選択し、落葉広葉樹林やアカマツ林、スギ・ヒノキ林を強く選択した。本研究から、越冬期にニホンジカは、雌雄および昼夜で異なる生息地選択性を示すことが明らかとなった。