| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-105  (Poster presentation)

絶滅危惧植物ミコシギクLeucanthemella linearis(キク科)の定着を制限する要因【A】【O】
Factors limiting the colonization of the endangered plant Leucanthemella linearis(Asteraceae)【A】【O】

*稲葉啓斗(広島大学), 大﨑壮巳(早稲田大学), 山本晃弘(広島市植物公園), 塩路恒生(広島大学), 清水則雄(広島大学), 中坪孝之(広島大学)
*Hiroto INABA(Hiroshima University.), Soshi OSAKI(Waseda University.), Akihiro YAMAMOTO(Hiroshima Botanical Garden.), Tsuneo SHIOJI(Hiroshima University.), Norio SHIMIZU(Hiroshima University.), Takayuki NAKATSUBO(Hiroshima University.)

 ミコシギクLeucanthemella linearisは、中国大陸東北部、朝鮮半島から日本にかけて分布するキク科の湿地性多年生草本である。本種は、国内では東海地方や中国地方等に点在しているが、多くの自生地において、生育環境の変化やシカによる食害等によって個体数が減少し、環境省レッドリストに絶滅危惧Ⅱ類(VU)として掲載されている。本研究では広島県東広島市の個体群を対象として、発芽実験、圃場実験、野外実験を行い、本種の保全の基礎情報となる種子発芽および実生定着の制限要因を解明することを目的とした。
 本種の発芽特性を明らかにするために、段階温度法(Washitani 1987)を用いた発芽実験を行った。その結果、本種は短期間の低温を経験することで発芽可能となり、温度が12℃を超えると発芽した。また明環境、湿潤環境で発芽が促進されることが示唆された。
 実生の成長に対する光環境の影響を解明するために、圃場で光環境の異なる4つの区画(相対光量子束密度100、50、20、5%)を設け、実生を栽培した結果、50%区と20%区で最も成長が良く、5%区では全ての個体が枯死した。このことから、本種は林床のような強い遮光環境では生存できないものの、幅広い光環境で生育可能であると考えられた。
 上記を踏まえ、野外における実生の定着要因を明らかにするために、自生地で光環境および水分環境の異なる3区画を設置し、各区画にミコシギクを播種した結果、光環境よりも水分環境の影響が大きく、常に湿潤な環境でのみ定着できることが確認された。
 以上のことから、本種の定着に温度や光に関して特殊な要求性はないが、湿潤環境が重要であることが明らかになった。一方で、自生地周辺には定着に適していると思われる環境があるものの、本種の群落は限られた狭い範囲にしか成立していない。その理由としては、シカによる食害以外にも、本種の種子散布能力の低さ(種子の重量が重く、冠毛が無い)や、雨天時の水流増加が影響していると考えられる。


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