| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-109 (Poster presentation)
クマガイソウはラン科アツモリソウ属の多年草であり、東アジア地域に広く分布している。本種は地下茎で増殖するクローン植物であるが、園芸植物としての需要による盗掘や、開発の影響で生息地は減少しているため、各地で保全活動が行われている(環境省レッドリスト:絶滅危惧II類)。
本研究で対象とした山形県でもクマガイソウは絶滅危惧IB類に指定され、限られた産地しか知られていなかったが、近年県内最大規模の集団が発見された。この集団はスギ林下のおよそ200m×500mの範囲に多様なサイズのパッチが100以上点在する大集団である。本集団の実際の個体数を含む遺伝的多様性や遺伝的特異性を明らかにすることができれば、山形県におけるクマガイソウの現状評価や保全戦略の立案に大きく貢献できると考えられる。そこでこの目的集団と県内の他集団を対象に野外調査とMIG-seqデータを用いた遺伝解析を行った。方法として、県内8つの自生地において、パッチ数、パッチごとのラメット数、開花数を記録し、また遺伝解析用のサンプルを各パッチより1から4サンプル採集した。野外調査の結果、他集団は1から4パッチからなる少数のパッチによって構成され、ラメット数も2から66と少なかった一方で、目的集団は111パッチ計1542ラメットで構成されていた。また目的集団の開花率は60.0%と高かった。8集団計320個体を遺伝解析した結果、目的集団は県内の他集団とは遺伝的に分化していること、目的集団の270ラメットは219ジェネット(G/N比=0.81)で構成されていることが明らかになった。他集団のG/N比(0.25~1.00)と比べて目的集団のG/N比は特出して高くはなかったものの、ジェネット数を考慮すると、本集団は山形県内のクマガイソウ保全の上での主要な遺伝資源であるといえる。一方で集団間の遺伝的分化を考慮すると、他の小集団もこの目的集団とあわせて保全していく必要があると考えられる。