| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-113  (Poster presentation)

土地利用は自然体験を介して人々のウェルビーイングと保全行動に影響するか?【O】
"Does land use influence people's well-being and pro-nature behaviors through natural experiences?"【O】

*青田雄太郎(東京大学), 山田祐亮(森林総合研究所), 三ツ井聡美(森林総合研究所), 山浦悠一(森林総合研究所), 赤坂宗光(東京農工大学), 曽我昌史(東京大学)
*Yutaro AOTA(Tokyo Univ.), Yusuke YAMADA(RIFFP), Satomi MITSUI(RIFFP), Yuichi YAMAURA(RIFFP), Munemitsu AKASAKA(Tokyo Univ. of AT), Masashi SOGA(Tokyo Univ.)

近年、公衆衛生および生物多様性保全に向けた行動変容の観点から、人と自然の「つながり」が注目されている。自然とのつながりは様々な側面から捉えられるが、大きく「身体的」なつながりと「心理的」つながりに大別できる。これら二種類のつながりが人(健康)と自然(生物多様性保全行動)に及ぼす帰結を探ることは自然共生社会の実現を達成する上で重要であるが、それらの影響のプロセスに関しては不明な点が多い。そこで本研究では、身体および心理的な自然とのつながりが人々の健康と保全行動に与える影響を明らかにすることを目的とした。

2023年10月に全国6000人を対象にアンケート調査を行い、(1)心身の健康状態、(2)保全行動の実施頻度、(3)身体的な自然とのつながり(自然体験頻度)、(4)心理的な自然とのつながり(自然との一体感)、(5)その他の個人属性を聞き取った。また、土地利用分析を行い各回答者の居住地の緑地面積を計算し、身体的つながりの尺度として用いた。解析では構造方程式モデリングを用いて、健康状態や保全行動の実施頻度に異なる自然とのつながりが与える影響調べ、比較した。

解析の結果、緑地面積は自然との一体感および自然体験を介して心身の健康と保全行動に正の影響を及ぼすことが示された。このことは、居住地周辺の自然が人々の意識・無意識のうちに自然とのつながりを高めるうえで重要な働きを持つことを示唆している。しかし、緑地面積が自然との一体感と自然体験に与える影響は、本研究で検証した構造方程式の中では中程度の強さであった。最も強い影響は、自然とのつながりが自然体験に与える影響であった。このことは、人と自然のつながりを考えるうえで周囲の緑地が重要である一方で、必ずしも緑地が必要というわけではなく、自然との一体感を高めることによって健康や保全行動に対する正の帰結が十分に得られることを示唆している。


日本生態学会