| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-115 (Poster presentation)
沈水植物は湖沼・湿地生態系の重要な構成要素ながら、我が国では減少の一途を辿っている。これら沈水植物の保全と再生には土壌シードバンクの利用が有効だが、土壌シードバンク中の埋土種子の生存率は時間とともに低下してしまう。そこで、土壌シードバンクの植生回復ポテンシャルを維持する方法として、一時的・局所的な植生復元により種子の再生産・地中への補充を誘導し、埋土種子の生存率低下を補う方法が考えられる。しかし、沈水植物群落の一時的回復が土壌シードバンクの密度を向上させるという点については検証が不足している。そこで、本研究では一時的に回復した沈水植物群落が土壌シードバンクの密度と種組成にどのような影響を及ぼすのかを検証することを目的とした。
千葉県の印旛沼において一時的な沈水植物植生の復元が過去に行われた場所(八代第一工区)と、隣接した工区外の地点を調査対象とした。底泥を工区内外の15箇所から2024年8月に採取し、2通りの水分条件(地下水位4cm、冠水9cm)下で撒き出し、実生発生法による埋土種子調査を行った。
調査の結果、工区内のサンプルからはトリゲモが多数確認され、さらにコウガイモ、ツツイトモ(またはホソバミズヒキモ)、シャジクモ属sp. が数個体ずつ確認された。これらの沈水植物はかつて印旛沼に広く生育したが現在までに姿を消した種であり、かつ過去の植生再生において工区内に出現した種である。一方で工区外からはこれら沈水植物の種子が確認されなかった。したがって、一時的な植生再生は土壌シードバンクの回復に効果を持つことが示唆された。一方で、過去の植生再生時に工区内に出現したクロモなどの多数の沈水植物が今回の調査で確認されず、今後の継続的・発展的な解析が必要であることも示された。