| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-116  (Poster presentation)

人間の会話騒音がシジュウカラの音声コミュニケーションに与える影響【A】【O】
Effect of human conversational noise on the acoustic communication of Japanese tit(Parus minor)【A】【O】

*門田直輝, 石田隆悟, 先崎理之(北海道大学)
*Naoki MONDEN, Ryugo ISHIDA, Masayuki SENZAKI(Hokkaido Univ.)

 人間活動によって生じる人為的な騒音は、様々な動物の鳴き声の知覚や行動に影響を与える。国立公園では飛行機や自動車についで、人間の声が主要な騒音源である一方で、会話騒音が生物に与える影響に関する知見は乏しい。本研究は会話騒音が生物に与える影響を評価することを目的に、人数・音量・言語といった要素に着目し、特に騒音の影響が懸念される鳥類の音声コミュニケーションに対する会話騒音の影響を検証した。
 このために本研究では会話騒音下でのシジュウカラの集合声に対する行動的応答を調べた。まず、人数・音量・言語の異なる8種類の人間の会話騒音およびジュウカラの集合声が同時に再生される音源と、コントロールとしてシジュウカラの集合声のみが再生される音源の計9種類の音源を作成した。北海道大学苫小牧研究林において、スピーカーからこれらの音源をシジュウカラに再生して接近行動を観察するプレイバック実験を、2024年7~8月に56回、10月に102回実施した。各実験では、対象個体の接近開始時間、最接近距離、最終距離および、対象群れの集合声の鳴き返し回数、集合声以外の鳴き返し回数を計測した。各応答指標に対する各騒音の影響を調べるために、一般化線形混合モデルによる統計解析を行った。
 その結果、会話騒音ありではコントロールに比べて、接近開始時間が37.6~119%、最接近距離が6.28~50.3%増加した。最終距離は7カテゴリーで20.1~90.2%増加、低音量の1カテゴリーでは0.35%減少した。一方、集合声の鳴き返し回数は8.29~69.2%減少した。集合声以外の鳴き返し回数はコントロールと会話騒音下で明確な違いがあるとは言えなかった。また、多くの応答指標に共通して、人数や会話言語による影響の違いは小さく、いくつかの応答指標では、音量が大きいほどコントロールとの差が大きかった。これらより、人間の会話騒音によってシジュウカラの応答は変化し、騒音影響の緩和には小音量での会話が望ましい可能性が示唆された。


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