| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-118  (Poster presentation)

海岸環境は遺伝的多様性を説明するか?:沿岸性ウミアメンボ類を例に【A】【O】
Does the coastal environment explain the genetic diversity of the sea skater Halobates (Heteroptera: Gerridae) ?【A】【O】

*朝鍋遥(東京大学), 村上翔大(東京大学), 坂本充(ミヤジマトンボ協議会), 矢後勝也(東京大学), 井川輝美(盛岡大学), 土畑重人(東京大学)
*Haruka ASANABE(UTokyo), Shota MURAKAMI(UTokyo), Mitsuru SAKAMOTO(Miyajima-dragonfly Conf.), Masaya YAGO(UTokyo), Terumi IKAWA(Morioka Univ.), Shigeto DOBATA(UTokyo)

 海流や地形などの海岸環境特性は、沿岸生物の分布や種多様性に影響を与える要因の一つである。本研究では、海岸線の複雑さをフラクタル次元の概念を用いて定量し、沿岸域に生息するウミアメンボ類を対象に、海岸線の複雑さが(1)生息好適度と(2)局所集団の遺伝的多様性に影響を与えるかどうかを検証した。沿岸性ウミアメンボ類は、マングローブ林や入り江の開放水面に生息しているが、近年の港湾開発や水質悪化により生息地の劣化が懸念されている。解析対象として、日本固有種であるウミアメンボ(以下、ウミ)と絶滅危惧種であるシロウミアメンボ(以下、シロウミ)を用いて、生息適地推定と集団遺伝解析を実施した。
 生息好適度は、MaxEntモデルを用いた分布推定を行うことで評価した。在データには、現地調査と文献記録によって収集した分布記録を使用した。環境データには海岸線の複雑さ(フラクタル次元)、海岸の自然度、WorldClimの生物気候変数(気温と降水量に関する6変数)を用いた。結果は、海岸線の複雑さは生息好適度に正の効果を与えており、特にシロウミの分布推定において高い寄与率を示した。
 MIG-seq解析によるSNPデータとミトコンドリアDNAのCOI遺伝子部分配列(581bp)を用いて集団遺伝解析を行い、遺伝的多様性を評価した。無翅で海面に生息する沿岸性ウミアメンボ類は、海流による分散が期待できるため、集団遺伝構造とともに分散の方向性をdivMIGRATEを用いて調べた。結果として、シロウミでは、海岸の自然度が高いほど局所集団の遺伝的多様性が有意に高かったが、海岸線の複雑さは局所集団の遺伝的多様性に影響しなかった。STRUCTURE解析では、ウミは八重山、沖縄島、奄美群島、長崎の4つ、シロウミは三重、瀬戸内海西部、九州北部、対馬の4つの遺伝的な分集団が確認され、Fstの値から分集団間の高い遺伝的分化が示された。また、ウミでは南西諸島から長崎への一方向的な分散が確認されたことにより海流分散が示唆された。


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