| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-119 (Poster presentation)
近年、温暖化により、琵琶湖の全循環の欠損や不全が観測されており、これが底層の低酸素化を引き起こしている。この状況は、底生生物の生存に影響が懸念されている。これまでの研究では、琵琶湖の底層に生息するスジエビやイサザなどの代表的な底生種に焦点を当て、温暖化による影響や時空間的変動が調査されてきたが、他の生物に関する詳細な情報は限られている。本研究では、琵琶湖に生息する魚類相を包括的に調査するため、定量的環境DNAメタバーコーディング法(qMiFish法)を用いて、温暖化が魚種ごとにどのような影響を与えるのかを解析し、特に気候変動に敏感な魚種の特定を試みた。採水及び水質調査は、全循環が観測された2016―17年と、部分循環が観測された2019年の夏季・冬季それぞれで実施した。2016―17年は夏季・冬季ともに23地点、2019年は夏季29地点、冬季20地点で調査した。これらのサンプルからDNAを抽出し、qMiFish法を用いて検出された魚類のDNA濃度を計算した。その結果、本研究では合計37種の魚類が検出され、そのうち7種が琵琶湖の固有種であった。検出された種の多様性には季節による有意な差が見られたが、全循環が観測された年と部分循環が観測された年に、湖底における多様性の変化は確認されなかった。湖底の種組成については、全循環と部分循環が観測された年の夏季では異なっていたが、冬季では一部の地点を除いて明確な違いは見られなかった。これらの結果から、現段階では温暖化に伴う全循環の停止が底層の魚類の分布に大きな影響を及えていると断言できない。最後に、アユ、ホンモロコ、ワカサギ、イサザが温暖化に敏感な種であることが明らかになった。これらの魚種は、温度変化や溶存酸素の低下といった要因によって、より大きな影響を受けやすい可能性がある。今後は、より長期間的な観測を行い、温暖化が魚類に影響を詳細に追跡する必要がある。