| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-120  (Poster presentation)

絶滅危惧種オオイチモンジシマゲンゴロウの季節消長と生息地選好性【A】【O】
Seasonal occurrence and habitat preferences of the endangered diving beetle Hydaticus conspersus【A】【O】

*山﨑駿, 橋口功大(東京大学)
*Shun YAMASAKI, Katsuhiro HASHIGUCHI(Tokyo Univ.)

 オオイチモンジシマゲンゴロウは、樹林内の湿地に生息する水生昆虫であり、その生息地の減少が著しいことから、環境省レッドリストにおいて絶滅危惧IB類に選定されている。しかし、本種の生態に関する知見は限られており、生息地の保全・再生に向けた具体的な取り組みは十分に進んでいない。本研究では、本種の保全に向けた生態的知見を得るため、野外調査および飼育実験を実施し、その生態を評価した。
 野外調査では、本種の生息地3ヶ所において月1回の調査を行い、成虫および幼虫の個体数を記録し、季節消長を明らかにした。また、生息地および周辺の湿地23ヶ所において、本種の個体数と湿地の面積、水深、水温、水質(pH・EC)、植生被度、樹冠被度を測定し、一般化線型混合モデルを用いて生息地選好性を評価した。飼育実験では、異なる温度条件(22, 26, 30℃)下で幼虫を飼育し、羽化率を測定することで温度が発育に及ぼす影響を検討した。
 その結果、成虫は年間を通じて確認され、個体数のピークは8〜9月に見られた。幼虫は5月および8月に、未硬化成虫は7〜11月に確認された。成虫の個体数は湿地の面積と負の相関を示し、水深、水温、樹冠被度とは正の相関が認められた。また、羽化率は22℃および26℃で80%以上であったが、30℃では0%であった。これらの結果から、本種は繁殖期間が長い、あるいは年多化の可能性があることが示唆され、保全においては、高温になりにくい薄暗く小規模な水域を維持することの重要性が示された。


日本生態学会