| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-121  (Poster presentation)

北海道東部防風林における絶滅危惧種ゴマシジミの集団遺伝構造【A】【O】
Population genetic structure of the endangered species Maculinea teleius Ogumae in windbreak forests in eastern Hokkaido【A】【O】

*榊原正宗(兵庫県立大学), 速水将人(道総研・林業試験場), 大脇淳(桜美林大学), 中濱直之(兵庫県立大学)
*Masamune SAKAKIBARA(University of Hyogo), Masato HAYAMIZU(HRO Forestry Research Inst.), Atsushi OHWAKI(J. F. Oberlin University), Naoyuki NAKAHAMA(University of Hyogo)

 防風林は、北海道東部の十勝平野および根釧台地の農地景観に広くみられる低地の森林である。北海道では、防風林に期待される減風効果を持続させるため、古い防風林の伐採や植え替えなどの管理が行われているが、近年その管理が、絶滅危惧種を含む生物多様性保全効果があることがわかってきた。防風林管理において生物多様性保全を効果的に進めるためには、防風林とその周辺の防風林景観内に分布する絶滅危惧種の遺伝的組成や集団間の遺伝的関係性についても明らかにする必要がある。
 ゴマシジミは、日本の北海道・本州・九州に分布する草原性のチョウであり、北海道東部の防風林景観には北海道亜種(Maculinea teleius ogumae)が分布している。環境省レッドリストでは、本亜種は準絶滅危惧種に指定されており、絶滅が危ぶまれている。本種の保全方法の確立には、各集団の遺伝的多様性や集団間の遺伝的関係性などのメタ個体群構造を明らかにすることが重要である。
 そこで本研究では、北海道東部におけるゴマシジミ北海道亜種のメタ個体群構造を明らかにするため、集団遺伝学的な解析を実施した。主に十勝平野、根釧台地に生息する178個体について、MIG-seqによるゲノムワイド一塩基多型(SNPs)集団遺伝解析を行なった。その結果、100km以上離れている十勝平野と根釧台地の地域集団間では遺伝的な構造に違いが見られたが、各地域内の局所集団間では数十km離れていても遺伝子流動が起こっていた。このように、北海道亜種では本州中部と比較して大きなメタ個体群を形成していることが示唆され、今回の解析からは防風林が遺伝子流動の障壁となっている可能性は少ないと考えられた。
 さらに本種の集団遺伝解析に加えて、遺伝的多様性と花序数や開花していた植物の種数、土壌湿度や開空度などの微環境要因を用いて、ゴマシジミの生息に適した環境特性の推定にも触れる。


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