| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-122 (Poster presentation)
魚類の産卵状況の調査は、繁殖特性の理解や恒久的な集団の維持をモニタリングするためにとても重要である。しかし、水面下で起こる産卵活動を常に観測することは容易ではなく、それゆえ近年は環境DNA技術を利用したアプローチに注目が集まりつつある。環境DNA分析では、環境水に含まれるDNA配列の量的変化から産卵(放精)の有無を推定する試みが行われている。しかし、環境DNA濃度は環境要因や他の生物的要因によっても変動し、産卵の有無を判断する定性的な基準もないことが従来法の課題として挙げられる。
そこで本研究では、精子の遺伝子発現をコントロールするDNAメチル化修飾に着目し、精子由来の環境DNAを特異的に検出する手法を開発した。実験の対象魚として固有種かつ絶滅危惧IB類(環境省)に指定されているカワバタモロコ (Hemigrammocypris neglectus)を扱い、精子特異的に高メチル化する遺伝子領域をマーカーとするMethylation Specific PCR (MSP)を実施した。組織DNAを用いた特異性テストでは、本検出系はカワバタモロコに対する種特異性と精子DNAに対する細胞特異性の両方を示した。また、カワバタモロコが生息するビオトープで行った隔週の採水調査では、繁殖期にカワバタモロコの精子環境DNAが検出された。時間ごとの比較では、精子環境DNAが朝に最も多く検出され、産卵頻度が高い時間帯を推定することができた。本手法は、1Lの採水によって産卵活動を定性的かつ定量的に観測できることから、在来種の保全や外来種の防除への貢献が期待される。