| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-124 (Poster presentation)
近年、ペット飼育や園芸目的での人為的移動が、種本来の分散能力を超えた長距離移動を引き起こし、遺伝的撹乱をもたらすことが報告されている。遺伝的撹乱は、地域固有の遺伝構造の喪失や、外交配弱勢による適応度の低下を引き起こし、結果として地域個体群の存続を脅かす可能性がある。そのため、人為的影響がもたらす遺伝的撹乱リスクを解明することは、生物多様性の保全にとって重要な課題である。
カブトムシ(Trypoxylus dichotomus)は、日本国内で最も人気のある甲虫の一つであり、全国各地で広く流通・飼育されている。しかし、飼育個体の逸出による遺伝的撹乱の影響は十分に理解されておらず、特に人間活動が密接に関わる地域ではその影響が大きい可能性がある。本研究では、都市化の進行によるカブトムシの遺伝的多様性に与える影響について評価した。
日本本土亜種が分布する北海道から鹿児島県において採集した野生個体250匹を対象に、MIG-seqを用いたゲノムワイド一塩基多型(SNPs)解析を実施した。得られたSNPデータから遺伝的多様性として個体ごとのヘテロ接合度観察値を算出し、各採集地点を中心に半径1kmおよび2kmのバッファを設定し、そのバッファ内に占める森林面積および人工改変地の面積を測定した。これらの面積割合を説明変数、個体ごとの遺伝的多様性を応答変数とし、一般化線形混合モデル(GLMM)を適用した。その結果、森林面積と遺伝的多様性との間に有意な相関は認められなかったが、東日本集団では人工改変地の割合が高い地域ほど遺伝的多様性が有意に増加する傾向が見られた。
本研究により、都市化の進行に伴う土地改変面積の割合が、カブトムシの遺伝的多様性の増加と関連していることが明らかとなった。このことから、開発や人為的移動などの影響がカブトムシの遺伝的撹乱を引き起こしている可能性が示唆された。