| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-126 (Poster presentation)
ヒメマス等のサケ科魚類は地下水が湧出している湖底や河床に産卵床を形成して産卵することが知られている.屈斜路湖でもヒメマスの産卵が確認されている.全国のヒメマスが生息する湖沼では産卵期のヒメマス漁獲に制限が設けられており資源量の安定化が図られているが,漁業権のない屈斜路湖ではそのような取り組みは行われていない.そこで本研究では屈斜路湖でのヒメマス産卵床を取り巻く環境要因を調査し,屈斜路湖での産卵期におけるヒメマスの保全策を考えることを目的とした.
調査は,1)屈斜路湖畔全域を踏査しヒメマスの産卵個体群の個体群サイズ・分布範囲の計測,2)産卵床数の増減の計測,3)底質内5 cmの温度と湖水温の温度差から湧水の湧出地点の推定,4)シーページメーターを用いた湧水量の計測,5)河川水・湖水・地下水の水質分析を行った.
2024年の産卵期では,ヒメマスの産卵個体群は大きく分けて2カ所に分布して産卵床を形成していた.分布が確認された地点は湖畔すぐ近くに傾斜の比較的大きな外輪山が位置し,確認されなかった地点では湖畔近くは平地となっていた.産卵床数は大きな変動は見られなかったが平日に比べて休日は減少する傾向が見られ,釣り人による踏圧や採取圧が原因であると考えられる.夏季における底質内温度が湖水温に比べて低い地点の分布は2023年と2024年でほとんど変わらなかった.また,ヒメマスの産卵床は底質内温度が低い地点に比較的集中しており,選択的に湧水が湧出している場所で産卵床を形成している.湧水量は雪解けの影響を受ける5月が8月よりも多く,岸から遠ざかるにつれて少なくなる傾向が見られた.湧水量と底質内温度・湖水温の温度差は相関が見られる地点と見られない地点があった.水質分析は,NO3+NO2-Nの濃度を比較すると,湖水・地下水はほぼ変わらなかったが河川水は5倍程度であったことから,屈斜路湖は地下水由来の水が大部分を占めているといえる.