| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-129 (Poster presentation)
日本国内の双翅目昆虫は2013年時点で7600種以上が記録されているが、実際に国内に分布する種数は22000種を超えると推定される。環境省レッドリスト2020に33種の双翅目昆虫が挙げられており、それらのうち13種が情報不足とされる。これら13種のレッドリスト中でのカテゴリーは2000年に公表された第2次レッドリストから変わっておらず、2025年現在まで同カテゴリーの追加種もない。
2000年以降地方同好会誌などでこれら13種の採集記録が散見されるようになった。また、これらの種について記載した図鑑や図書も発行された。しかし、これらの文献がそれまでに国内で記述された産地記録の詳細を記載したり、これらの種が記録された産地の現況が確認・記載されたりすることは稀であった。また、これらの種やそれらの生息環境の保全で必要となる情報が網羅的に収集され、その内容が検討されたことはなかった。そこで、情報不足とされたこれらの種について自然史系博物館など6つの研究機関に保管されていた標本や、国土交通省による河川環境データベース、さらに、これまでに出版されたり、インターネット上で公開されたりした160を超える文献上の産地記録を蒐集し、これらの種の地理的分布記録を更新した。特に、形態学的特徴が顕著で、体サイズが大型で、かつ国内で近似種が知られていないネグロクサアブやハマダラハルカは標本資料や文献記録が豊富であり、国内に広く分布していることが明らかであった。形態学的特徴が顕著で、体サイズが大型であっても近似の複数種を含むシマクサアブ類やクチキカ属は分類・同定に課題があることが明らかになった。また、いくつかの文献ではこれらの種の生息場所や生息環境、他の生物との関係などが記載されていた。
これらの種は日本固有種であったり、その上位分類群が世界で遺存的に分布していたりするなど、希少な系統にあることが多い。上記の情報を元に、これらの種の保全に必要な取り組みを議論する。