| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-133 (Poster presentation)
カワラバッタEusphingonotus japonicusは植被の少ない礫河原に生息する日本固有種である。ハビタットである礫河原の減少に伴いカワラバッタも数を減らしており、現在では31都府県のレッドリストに掲載されている。本研究では、カワラバッタの個体群の形成と維持に影響を与える要因を解明することを目的とし、大規模生息地である静岡県安倍川にて、標識再捕獲調査とUAVを用いた生息環境調査を実施した。
調査地は静岡県安倍川の河口から約17.8kmに位置する曙橋上流側右岸の約12haの礫河原とした。標識再捕獲調査は2024年7~10月に23~24日の間隔を空けて計4回実施した。捕獲したカワラバッタは性別と位置情報を記録し、前翅に標識を施してから放逐した。UAVを用いた生息環境調査は2024年11月28日に実施した。得られた空中写真からNDVIを算出し、NDVIの値が0.3以上の地点を植生ありと判断した。
標識再捕獲調査の結果は、総捕獲数は687匹、標識数は575匹、再捕獲数は112匹で、雌雄比は雄2:雌1程度であった。Jolly-Seber法によって推定された調査期間全体の総個体数は1507匹であった。再捕獲個体の移動距離の中央値は雄が74.6m、雌が60.8mであり、雄の方が有意に長かった。また21匹が30m以内の移動であり、ほとんど移動しない個体も存在することが判明した。
雄と雌の分布を相互K関数にて解析したところ、雄と雌が互いに集中して分布しており、雌雄の区別なく集団を形成していることが判明した。
生息環境調査より、カワラバッタの分布とランダムな点それぞれ586地点の植生からの距離を算出した。その結果、カワラバッタの分布とランダムな点の距離分布は有意に異なり、カワラバッタは植生から3~12mの位置にある裸地を集中的に利用していることが示唆された。
以上より、カワラバッタは植生と裸地がモザイク状に配置されている礫河原を選好し個体群を形成していると考えられ、現在の安倍川の河川管理はカワラバッタにとって好適な環境を作り出しているのかもしれない。