| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-134  (Poster presentation)

ハナカジカ (Cottus nozawae) の高温耐性は体サイズ依存か?【A】【O】
Does the thermal tolerance of Cottus nozawae depend on body size?【A】【O】

*小田郁実, 根岸淳二郎(北海道大学大学院)
*Ikumi ODA, Junjiro NEGISHI(Hokkaido Univ)

温暖化に伴う水温上昇は魚類の生活史や分布、生理的機能に影響を与え、特に冷水性魚類がその影響を強く受ける。種の気候変動への脆弱性は高温に最も脆弱な生活史段階によって決定され、高温耐性の体サイズ依存性を明らかにする研究が行われてきたが、その結果には一貫性が見られない。そこで本研究では、北海道に生息する冷水性魚類ハナカジカの気候変動への脆弱性解明のため、本種の高温耐性の体サイズ依存性を明らかにすることを目的とした。夏季最高日水温が低いブトカマベツ川 (幌加内町) と高い豊平川 (札幌市) で2024年の9、10月に調査を行った。魚類採捕後に個体数と体長を計測し、一日間の絶食後に高温耐性試験を行った。高温耐性試験では、水槽にポンプ、ヒーター、エアレーション、水温ロガーを設置し、実験個体の投入後水温を一定速度で上昇させ、個体が平衡感覚を失った水温 (CTmax) を記録した。GLMモデル選択により体長とCTmaxの関係を推定した。豊平川の個体はブトカマベツ川の個体よりもCTmaxが高いこと、ブトカマベツ川では成長に伴うCTmaxの上昇傾向があること、豊平川では成長に伴うCTmaxの低下傾向があることが明らかになった。河川間で異なるCTmaxは、水温に馴化して豊平川で高い高温耐性を獲得したか、遺伝的分化を伴う適応形質がその要因として考えられた。成長に伴うCTmaxの変動は酸素供給能力に制御されると考えられており、ブトカマベツ川では成長に伴う呼吸器官の発達が、豊平川では酸素供給に関わる鰓の面積割合の、成長に伴う減少がCTmaxの体サイズ依存性に寄与したと示唆された。本研究から、熱的に脆弱と考えられる生活史段階が河川間で異なり、本種の保全にあたってはこのことに考慮し、河川ごとに対応を検討する必要性が示唆された。しかし河川間でのCTmaxの体サイズ依存性の違いは、捕獲された個体の最小サイズの差により生じた可能性も考えられ、サイズレンジを合わせたさらなる検証が必要である。


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