| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-135 (Poster presentation)
遊水地は、増水時に河川水を一時貯留することを目的した造成地である。遊水地に成立する植生は多様であり、陸生種が優占する場合もあるが、多様な水生植物群集が見られる場合もあり、湿地環境や水生植物の保全機能も期待される。そこで、本研究では複数の造成年の異なる遊水地と周辺水域の環境・植物種構成・多様性を比較することにより、遊水地の水生植物の群集と多様性に関係する要因を検証した。
栃木県南東部、利根川水系の遊水地6箇所の遊水地および同水系の河川、水路、水田において、車軸藻類および水生維管束植物の出現種数の探索(2022-2024年)、全植物種を対象とした調査地点の1×1mコドラート内(計242箇所)の出種の被度、水深、水温、水質(pH、電気伝導度、NO3-濃度)の計測(2022-2024年)を行った。そして、各調査年・調査地点のデータに基づくα・β・γ多様性を算出し、植物種多様性の比較を行った。また、Bray指数に基づく地点間類似度を非計量多次元尺構成法(NMDS)によって2次元上に投影し群集組成を確認した。
2022年に造成直後の遊水地Aにて39種の水生植物が確認され、同調査年に対岸の遊水地B(造成年:2017年)においては11種の水生植物が確認された。その後三年で2つの遊水地ではどちらも水生植物種数が減少した。また、遊水地Aの植物群集組成は対岸の遊水地Bより、周辺の河川・水路・水田に類似しており、これは造成前の土地利用を反映したものであると考えられた。各遊水地において、2023年と2024年の調査データでは群集組成に大きな変化は認められなかった。各調査地含む群集組成と最も相関が強く見られた環境要因は水深であった。また、2023年に造成された遊水地内の群集組成比較においても各環境データの中で水深と強い相関が見られ、幅広い水深の環境を含む遊水地では水生植物の多様性が増加する可能性が示唆された。