| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-137  (Poster presentation)

異なる地理的スケールにおけるバイカモの遺伝構造の解明-保全再生への活用-【A】【O】
Genetic Structure of Ranunculus nipponicus at Various Geographic Scales: Implications for Conservation and Restoration【A】【O】

*中城拓真(筑波大学), 山田竜輝(筑波大学), 高木俊人(神戸女学院大学), 志賀隆(新潟大学), 仲川邦広(南相馬市博物館), 黒沢高秀(福島大学), 兼子伸吾(福島大学), 白濱雄太(白馬村役場), 田中啓介(東京情報大学), 津田吉晃(筑波大学)
*Takuma NAKASHIRO(Univ. of Tsukuba), Ryuki YAMADA(Univ. of Tsukuba), Toshihito TAKAGI(Kobe College), Takashi SIGA(Niigata Univ.), Kunihiro NAKAGAWA(Minamisoma City Museum), Takahide KUROSAWA(Fukushima Univ.), Singo KANEKO(Fukushima Univ.), Yudai SHIRAHAMA(Hakuba Village Office), Keisuke TANAKA(TUIS), Yoshiaki TSUDA(Univ. of Tsukuba)

水生植物は水生動物の生息・産卵場所の提供や水質浄化などの観点から、水環境や水圏生態系に重要である。しかし、近年の土地開発や水質汚濁などの影響により国内の水生植物は減少しており、水生植物およびそれをとりまく環境の保全は急務である。本研究では、水圏生態系の生物多様性保全への寄与だけではなく、地域により観光資源ともなっている日本固有の多年生水生植物であるキンポウゲ属バイカモ亜属(以下、バイカモ)に着目した。本研究の目的は、バイカモの遺伝構造を集団~地域~全国スケールで解明するとともに、実際のバイカモ保全・再生活動に応用することである。全国129地点から採取した844個体を対象に、母性遺伝する葉緑体DNAのSSR領域2座を用いて集団遺伝学的解析を行った。その結果、9つのハプロタイプが検出され、F’STは0.973であり、高い集団分化が明らかとなった。また、ハプロタイプ1および5は東北地方中南部(宮城県~山形県)を境にその南北にそれぞれ広く分布し、冷温帯樹種などと類似した遺伝構造が検出された。また葉緑体DNAの塩基置換を用いた先行研究では識別できなかったミシマバイカモ、チトセバイカモからも、本研究ではそれぞれの種、亜種に対応するハプロタイプが検出され、単一系統とされていた東北地方以南集団からも複数のハプロタイプが検出された。さらに、複数地点で不連続な分布が確認され、過去の分布変遷、鳥類による長距離分散、祖先多型などの影響が考えられた。2014年に生じた地震により形成された長野県白馬村の神城集団では、白馬村他集団とは異なるハプロタイプが検出され、鳥類による長距離分散を支持する結果も得た。核DNAを対象とした集団ゲノミクスを進めるとともに、地域スケールでは最近バイカモが減少してしまった長野県白馬村姫川源流周辺において地元自治体等の協力のもと、再生に向けた取り組みも行っている。


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