| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-138  (Poster presentation)

位置情報データで行動変容を捉える: ロードキルを防ぐ有効な速度低減策と規定要因【A】【O】
Capturing behavioral change through geolocation data: Effective interventions and determinants to reduce wildlife-vehicle collisions【A】【O】

*本間千熙(農工大・農), 赤坂宗光(農工大・院・GIR)
*Chihiro HOMMA(TUAT), Munemitsu AKASAKA(TUAT・GIR)

生物多様性保全の脅威の殆どは人の行動に起因している。そのため保全の推進には人の行動変容が欠かせない。保全のための行動変容に有効な介入策に関わる研究は近年増加しているが、保全に直接寄与する行動を扱った事例は極めて少ない。更に行動変容のための介入は対象の個人を特徴に基づき区分し異なる方策をとるべきとされているが、実際には特徴を区別せず全体としての介入の有効性を評価した例が殆どである。本研究は、行動変容が必要な事例として、ロードキル対策のための運転速度の低減に注目し、実際の運転速度に対する介入の効果に差異をもたらす対象者の属性や条件を明らかにした。
具体的には、野生動物へのロードキルが保全上の脅威となっている西表島における運転速度の低減に注目し、運転速度はスマートフォンに搭載されたアプリケーション経由で2021~2023年の間に取得された情報で把握し、イリオモテヤマネコの保護を意図して設置された警告標識が実際の運転速度の抑制に与える効果を、特にアプリケーション利用者の居住地(島内、島外)および運転時間帯の差異が及ぼす影響に注目して検証した。検証は居住地の影響はControl-Impactデザインで、運転時間の影響は、島内居住者に注目しBefore-After-Control-Impactデザインで評価した。
結果、看板設置により速度変化の記録のうち上位60パーセンタイル以上では約3km/hの減速がみられたが、その効果は居住地と運転時間帯により異なった。居住地、運転時間帯に関わらず運転者は看板手前での運転速度が大きいほど大幅に速度を低減していたが、島内居住者は、看板の背景が黄色ではなく赤色だとこの傾向が強くなった。また、看板手前での運転速度や背景色が看板設置による速度低減に及ぼす影響は、昼間より夜間で顕著に表れた。
以上の結果は運転速度低減のための看板設置の効果は、対象者の属性や条件により異なることを意味し、介入の効果を高めるには、対象者の属性や条件に応じた工夫が必要であると示唆された。


日本生態学会