| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-142  (Poster presentation)

人の振り見て我が振り直す?:非意図な種の持込の抑止に向けた行動と心理的過程の理解【A】【O】
Learn from others' behavior? understanding key psychological processes to limit unintentional non-native plants introduction.【A】【O】

*中田昴(農工大・院・農), 赤坂宗光(農工大・院・GIR)
*Subaru NAKADA(TUAT), Munemitsu AKASAKA(TUAT・GIR)

生物多様性の損失を減速させるにはその主要因である人の行動の変容が急務である。しかし、直接的に保全に寄与する行動への介入の効果を検証した研究はほとんどない。さらに個人の行動は本人の知識や態度といった内的要因と併せて他者の意見や行動などの外的要因の影響を受けることが隣接分野での行動変容の研究で指摘されているが、保全行動では専ら前者が注目され、後者の役割や両者の相対的な重要性は検討されていない。
本研究は、保全行動への介入の効果に果たす個人の内的要因及び外的要因の役割の理解を目的とし、保全行動として自然地域への靴を介した外来植物種子の持込の抑止に有効である清掃行動に着目した。調査は登山口に靴の清掃器具とその利用を促す仕掛けからなる清掃場を設置した上で、訪問者に対して、清掃場での行動観察と清掃場通過後のアンケート調査を行った。内的要因には、COM-B理論で規定される個人の行動を規定する3つの要素(能力、機会、動機)に注目し、アンケートでそれらの程度を評価した。外的要因には、被験者と同時点で清掃場にいた他者の行動を採用した。
結果、他者のうち同行者の清掃器具の使用人数の増加は被験者の清掃器具の使用率を高め、不使用人数の増加は使用率を減少させた。一方非同行者の挙動は影響しなかった。また、清掃ツールの使用有無に影響していた内的要因は動機のみであったが、その影響の程度は外的要因と比べ限定的であった。
これらの結果は、外的要因が生物多様性保全に向けた行動変容への介入の効果に対して重要な役割を果たす事を示唆する。さらに保全の介入の効果の程度は文脈依存であるとされているが、他者の行動がその文脈を決める大きな要因であることも示唆する。保全に向けた行動変容への介入は、対象集団の全員に均等に実施するよりも、一部の個人に集中的に行い率先して行動を起こさせることで、飛躍的に効果を高めることができるかもしれない。


日本生態学会