| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-146  (Poster presentation)

希少水生植物ナガバエビモの繁殖特性と遺伝的多様性【O】
Reproductive characteristics and genetic diversity of rare aquatic species, Potamogeton praelongus Wulfen【O】

*福田ゆき(筑波大学), 轡田圭又(筑波大学), 首藤光太郎(北海道大学総合博物館), 渡邉嘉人(国立科学博物館), 槐ちがや(土木研究所), 石井千賀子(国立科学博物館), 廣田充(筑波大学), 田中法生(国立科学博物館)
*Yuki FUKUDA(University of Tsukuba), Keisuke KUTSUWADA(University of Tsukuba), Kohtaroh SHUTOH(Hokkaido university museum), Yoshito WATANABE(National Museum of Nat. & Sci.), Chigaya ENJU(Public Works Res. Inst.), Chikako ISHII(National Museum of Nat. & Sci.), Mitsuru HIROTA(University of Tsukuba), Norio TANAKA(National Museum of Nat. & Sci.)

 ナガバエビモPotamogeton praelongus Wulfenは、日本では北海道に自生するヒルムシロ科の大型水生維管束植物である。本種は近年個体数が減少しており、絶滅危惧IA類および国内希少野生動植物種に指定されている。
 本研究ではナガバエビモの繫殖特性と国内の個体群の遺伝的状況を明らかにするために種子発芽特性と交配特性に関する実験、遺伝解析を実施した。種子発芽特性の実験から、種子への複数回の低温処理が発芽を促進することが明らかになった。この特性は水生植物では初めての報告である。交配特性の実験により、本種は自家受粉によっても種子が生産されることが明らかになったと同時に、自家受粉による種子の結実率は他家受粉による種子の結実率と比べて低いことがわかった。野生個体群の種子形成率は、栽培個体群で他家受粉が促進された場合と同様に高かったことから、自生地では他家受粉が生じていることが示唆された。一方で、本研究を実施した国立科学博物館筑波実験植物園の栽培環境では何らかの要因により他家受粉が制限されている可能性が示唆された。遺伝解析では、日本国内のナガバエビモの個体群はそれぞれ遺伝的に独立である一方、遺伝的距離に基づき大きく3グループに分けられることが示唆された。また、それらのグループ分けは地理的な距離のみによらないことが分かった。
 これらの結果を踏まえ、ナガバエビモの生育域外保全と生育域内保全の両方を通じた総合的な保全指針を示す。


日本生態学会