| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-153 (Poster presentation)
ネコとネズミ類が侵入した生態系では,ネコの駆除によるメソプレデターリリース(ネズミ類の増加と在来種への影響悪化)が生じる可能性があり,その生起を予測することは在来種を回復させる上での重要な課題である.
本研究では,伊豆諸島の御蔵島で行われた3年間のネコの個体数管理 (捕獲・譲渡)が,ネコ・オオミズナギドリ・外来ネズミ類(ドブネズミ・クマネズミ)に与えた影響を検証した.捕獲時期と場所は年度ごとに異なり,2021年度(2021/12~2022/2)の試験的な捕獲に対して,2022年度(2022/12~2023/3)はアクセスが容易な道路沿いの捕獲圧を増加させた.その後の捕獲データの解析により,森林内でメス個体が捕獲されやすいことが示唆されたため,2023年度(2024/1~2024/3)は森林内の捕獲圧を大幅に増加させた.各年の春から秋にかけて,自動撮影カメラでネコの個体数,巣穴モニタリングでオオミズナギドリの繁殖成功,生体捕獲でネズミのCPUEを調査した.
その結果,ネコ捕獲前と比較すると,ネコの推定個体数は減少,オオミズナギドリの繁殖成功率は増加,ドブネズミのCPUEは減少,クマネズミのCPUEは増加傾向にあった.特に,メス捕獲数が最大化した2023年度の捕獲後の,2024年度のネコ・オオミズナギドリ・外来ネズミ類の応答が最も顕著であった.また,道路沿いの捕獲とは対照的に,森林内でのメス捕獲数は罠日に対して頭打ちになる傾向が見られなかった.
以上の結果から,森林内での捕獲圧を今後さらに増やすことで,ネコの個体数が減少し,オオミズナギドリの繁殖も改善されていく可能性が示された.また,ネコの減少に対して2種のネズミ類が異なる応答を示したことは,ネコからネズミ類へのトップダウンだけでなく,ネズミ類の種間競争や,ボトムアップ(餌生物・ネコが食べ残したオオミズナギドリ)の影響も統合的に考えることが,メソプレデター・リリースの生起を予測する上で重要であることも示唆している.