| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-154  (Poster presentation)

蛇紋岩土壌の化学的特性は外来植物侵入の障壁となるのか?【A】【O】
Do the chemical properties of serpentine soils restrict invasion by exotic plants?【A】【O】

*金口喬也(広島大学), 井上竜輔(広島大学), 山本晃弘(広島市植物公園), 渡部敏弘(北海道大学), 和崎淳(広島大学), 竹田一彦(広島大学), 中坪孝之(広島大学)
*Kyoya KANEGUCHI(Hiroshima Univ.), Ryusuke INOUE(Hiroshima Univ.), Akihiro YAMAMOTO(Hiroshima Botanical Garden), Toshihiro WATANABE(Hokkaido Univ.), Jun WASAKI(Hiroshima Univ.), Kazuhiko TAKEDA(Hiroshima Univ.), Takayuki NAKATSUBO(Hiroshima Univ.)

蛇紋岩地帯では固有種を含む特徴的な植生が発達している。これはCa/Mg比が低い、pHが高いなどの特殊な土壌環境が、多くの植物にとって生育の制限要因となり、耐性のある植物しか生育できないためと考えられている(Brooks 1987; 波多野・増沢 2008)。外来種の侵入はその地域に生育する固有種にとって脅威になると考えられるが、蛇紋岩地帯における外来種への影響や侵入する可能性を検討した研究はほとんどない。そのため、本研究では蛇紋岩地帯の特徴である低いCa/Mg比に着目し、それらの影響や侵入可能性を検証した。
材料には在来種で蛇紋岩地帯にも生育するススキMiscanthus sinensis Anderss.と、北アメリカ原産の外来種で主に関東以西に分布するメリケンカルカヤAndropogon virginicus L.そしてヨーロッパ原産の外来種で緑化や牧草などによく利用されるネズミムギLolium multiflorum Lam.を用いた。Ca/Mg比に関しては低Ca/Mg区(Ca/Mg比 0.15)、対照区(1.5)、高Ca/Mg区(15)の3処理区を設定し砂耕栽培を行った。また、植物体内のCaとMgの濃度や量をICP-OESおよびICP-MSで分析定量した。
植物体のCaやMgの濃度については、どの植物においても培養液のCa、Mg濃度に応じて変化したが、変化の幅は培養液よりも植物体内の方がはるかに小さかった。成長については、在来種のススキが低Ca/Mg区で対照区に比べて地上部の乾燥重量が有意に小さかった。このことから蛇紋岩地帯ではススキの成長が制限され、相対的に他の種類の植物が生育しやすくなっていることが考えられる。一方で、外来種のメリケンカルカヤは地上部の高さと乾燥重量ともにすべての区間で有意差が無かった。ネズミムギは低Ca/Mg区で対照区よりも乾燥重量が有意に小さかったが、地上部の高さに関しては有意差はなかった。以上の結果から、蛇紋岩地帯の低いCa/Mg比はこれらの外来種の侵入の障壁にはならず、将来的に外来種が侵入する可能性があると考えられる。


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