| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-160 (Poster presentation)
侵略的外来種の中で、アリはその種数や生態系への影響の点で突出している。侵略的外来アリの多くは、侵入先で「超」多巣性コロニー(スーパーコロニー;一つのコロニーが超多数の巣を持つ)を形成し、これが侵略性の原因であると考えられている。多巣性は多くの場合その自然分布域でも見られる性質だが、その程度は侵入先において著しく高い。つまり、自然分布域と比較して侵入先において多巣性程度が大きく増大している。
この大きな変化にどのようにして適応し、侵略的になったのか。これに対して二つの可能性が考えられる。一つは、超多巣性状態に適応した行動が侵入先で新たに進化したという可能性である。もう一つは、増大した多巣性状態に適応できる可塑性を自然分布域で元々有していたという可能性である。本研究では、後者の可能性を検証するため、多巣性と種間競争上の優位性との相関が、侵略的外来アリの自然分布域において観察されるかどうかを調べた。
対象種トビイロシワアリTetramorium tsushimaeは東アジアに自然分布する多巣性アリである。米国中東部に侵入しており、約70kmに及ぶスーパーコロニーを形成し侵略的になっている。東京都の平野部において、トランセクト法と敵対性試験を組み合わせて多巣性の程度を評価し、餌トラップによって種間競争上の優位性を評価した。その結果、多巣性程度が高い場所ほど種間競争上の優位性が有意に高いことが明らかになった。このことは、増大した多巣性状態に適応できる可塑性を自然分布域で元々有していたことを示唆している。発表では、個々の巣レベルでの競争上の優位性や場所ごとのアリ群集組成を比較した結果も報告する。