| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-166 (Poster presentation)
演者は、不妊虫放飼法と繁殖干渉の理論的類似性に注目し、一種の不妊虫によって同種のみならず近縁他種の害虫も防除する新しい防除法の開発を試みてきた。これまで行った理論的な検討により、ごく弱い繁殖干渉しかない場合でも、繁殖干渉を与える種の不妊虫を放飼することで、2種の害虫をほぼ同時に根絶させることが可能であることを明らかにしている。2024年に沖縄本島北部のミバエ類侵入警戒トラップででセグロウリミバエZeugodacus tau(以下セグロ)が沖縄本島で初めて誘殺され、その後分布を広げつつある。沖縄県ではウリミバエZ. cucurbitae(以下ウリミ)根絶後の再侵入防止措置として、ウリミバエ不妊虫の放飼を継続している(沖縄本島では中南部のみ)。そこで、ウリミ不妊虫からセグロに対して繁殖干渉が起こるのかを実験的に検証した。
実験アリーナとしてメッシュケージ(約2x2x2m)を用意し、2段階消灯により薄暮を「再現」した飼育部屋に設置した。放飼不妊虫による繁殖干渉を模すため、セグロ単独区(セグロ:ウリミ=20ペア:0ペア)および不妊虫放飼区(セグロ:ウリミ=20ペア:200ペア)を設定した。実験開始日の昼過ぎにミバエを放飼し、3日後に回収した。回収したセグロメスを3日間飼育した後、個体ごとに採卵し、産卵数と孵化数を記録した。
その結果、メスの産卵率は不妊虫放飼区で有意に増加した。ただし、全てのメスのうち、受精卵を産んだメスの割合は有意差がなかった。また、産下卵の孵化率は不妊虫放飼区で有意に低下した。以上の結果をまとめると、セグロの繁殖成功度は不妊虫放飼区の方が低くなると考えられる。本研究の結果は、繁殖干渉をSITに組み込むことで、複数種を同時に防除する技術にできる可能性を示している。