| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-173 (Poster presentation)
近年世界中でオーバーツーリズムによる住民や自然環境への影響が問題になっている。瀬戸内海国立公園内にある大久野島は、ソーシャルメディアなどを通じて「ウサギの島」として有名になり、多くの観光客が大久野島を訪れるようになった一方、様々な問題が生じている。その一つに、島内に生息する半野生化したカイウサギ(以下ウサギ)の急増がある。島内のウサギ個体数は、2006年(約300頭)から2018年(約920頭)にかけて3倍になっており、この著しい増加は観光客による給餌に起因している可能性が指摘されている。
本研究では、給餌の現状と影響を明らかにする目的で、観光客による持ち込み餌量を推定するとともに、島内の在来餌資源の一つである芝地の年間純生産量とウサギによる摂食量を推定し、これらの比較を行った。持ち込み餌量は観光客を対象としたアンケート調査から、芝地の生産量および被摂食量は現地での刈取り調査と衛星画像解析をもとに推定した。その結果、島内全体での芝地純生産量は4.7 t/yrで、その77%をウサギが摂食していると推定された。一方アンケート回答者の75%が島にウサギの餌を持ち込んでおり、観光客による持ち込み餌総量は最大で約27 t/yr、芝地純生産量の5.7倍にのぼることが推定された。芝地のみを餌資源と限定すると、島内で生息可能なウサギ個体数は200〜300頭前後と考えられるが、現在もそれを上回る個体数が確認されており、観光客による過剰な給餌が個体数増加に大きく寄与していることが示唆された。さらに島内では、採餌や営巣といったウサギの行動に起因するラビットラインの形成や土壌侵食が多く観察された。以上の結果と、島内の自然環境保全と持続可能な観光へのシフトという観点から、段階的な給餌制限を実施するなど島の現状に即した対応を行っていく必要があると考えられた。