| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-177 (Poster presentation)
ネイチャーポジティブの実現に向け、環境省は2023年より企業が所有する緑地や森林などを自然共生サイトとして認定している。パナソニック株式会社は2011年に滋賀県草津市にある工場の緑地に「共存の森」と呼ばれるビオトープを創設した。共存の森では創設以来の調査により、これまでに約840種の生物が確認されている。2023年に自然共生サイトに登録され2024年より大学との協働研究がスタートした。本発表では他の発表(P2-192、P2-186)と合わせて、生態系ネットワークの構築や新たな生態学的研究など企業と大学の協働事例を紹介する。
菌類は森林内で分解者や共生者など多様で重要な役割を持ち高い多様性を誇るが、採集や肉眼での分類が困難である。近年、環境DNAを用いた菌類の多様性の解析が可能となってきた。そこで本発表は共存の森内5地点にポンプを設置し、2024年5月から10月まで月1回24時間(2L/min)大気中に浮遊する真菌類の胞子や生物片に由来するDNAをメンブレンフィルターに付着させ収集し、DNAメタバーコーディングにより共存の森における菌類の多様性の変動と植生や季節との関係を明らかにした。プライマーはITS1-F-KYO2およびITS2-KYO2を用いた。植生は1地点ではアラカシなど常緑樹が優占し、4地点はマルバヤナギ、ヤマザクラ、エノキなどそれぞれ異なる落葉樹が優占した。
結果、30サンプルの平均リード数は4228.8±3350.4でASV数は1942であった。そこから子嚢菌門393種、担子菌門375種、その他2門から1種ずつ確認された。NMDS(Jaccard指数)により、5月から10月の同月内での地点間の類似度が高く、季節が離れるほど有意に類似度が低くなった(PERMANOVA, P<0.001)。一方、同地点での各月の類似度は比較的低く、植生の影響は小さいと考えられた。