| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-179  (Poster presentation)

GPS首輪の振動センサーを用いたニホンジカの行動推定【A】【O】
Estimation of sika deer behavior using shake sensor in GPS collars【A】【O】

*久山高平, 吉原佑(三重大学)
*Kohei HISAYAMA, Yu YOSHIHARA(Mie university)

ニホンジカ(以下,シカ)は日本を代表する大型哺乳類であるとともに,全国的な生態系被害を引き起こす存在でもある.GPSを用いた研究が進んでいるものの,測位点での具体的な行動を考慮するには至っていない.行動学的文脈を考慮した研究が可能になれば,シカの行動生態のさらなる理解や,生態系被害のリスク評価や個体数管理に役立つと考えられる.そこで,本研究ではGPS首輪に搭載された振動センサーによる行動推定法を開発し,行動と環境要因との関係の解明を試みた.
三重県亀山市で捕獲されたシカのメス亜成獣に,振動センサー付きGPS首輪と行動撮影用カメラを装着した.行動推定は振動センサー値と動画記録を照らし合わせたのち,決定木を用いて活動的行動と非活動的行動を区別する閾値決定を行った.決定木による分析では1000回のブートストラップにより,閾値の平均と95%信頼区間を導出した.さらに,行動判別閾値をメス成獣3頭のデータに適用し,行動状態による環境選択性の違いを,日中,夜間,薄明薄暮時にわけて一般化線型混合モデル(GLMM)によって分析を行った.目的変数として行動状態ごとの利用地点(行動圏内のGPSポイントデータ)と利用可能地点(行動圏内のランダム点)を,説明変数として植生・地形・林縁からの距離を用い,AICを用いたモデル選択を行った.
決定木による分析の結果,振動センサー値が6.3(SI:3.5-9.5,正解率:94.4%)以上だと活動的行動だと判断された.GLMMの結果,日中は活動・非活動時ともにヒトを回避しやすい場所(急傾斜地や林内)を選択し,夜間は活動・非活動時ともに採食適地(耕作地や草地,林縁の近く)を選択していた.薄明薄暮時は活動時に採食適地(草地),非活動時にヒトを回避しやすい場所(林内や急傾斜地)を選択していた.本研究により,振動センサーを用いた行動推定が有効であることが示され,シカの行動生態の理解と生態系管理への応用の可能性が示唆された.


日本生態学会