| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-181  (Poster presentation)

耕作放棄地に植林したクヌギ林における経過年数による植生復元状況の比較【O】
Comparison of the state of vegetation restoration over time in Sawtooth oak forests planted on abandoned farmland【O】

*伊藤浩二(岐阜大学), 大野長一郎(株式会社ノトハハソ)
*Koji ITO(Gifu Univ.), Cho-ichiro ONO(Noto Hahaso Co., Ltd.)

 耕作放棄地に植林されたクヌギ林地での製炭原木の生産と生物多様性保全の両立可能性を明らかにするため、石川県珠洲市の奥能登丘陵に位置する広葉樹二次林をかつて開削してできた畑地が耕作放棄地となった場所で、地元製炭業者がクヌギ植林を行った林齢の異なる林分を対象に、クロノシーケンス法による植生調査を行った。当地ではほぼ8年おきにクヌギ伐採・萌芽を繰り返す管理を行っている。植生調査は2020年と2023年にクヌギ植林地の林床に2m四方の方形区を用いて枠内に出現する全維管束植物種の被度と群度を記録し、クヌギ植林を伴う里山管理による自然再生過程を植生遷移の視点から明らかにすることとした。
 2020年調査では、植林間もない林分では耕地生・荒地生の雑草群落構成種の出現が特徴的であった。また萌芽更新後間もない林分では一時的にクヌギ林冠が取り除かれ、イタドリ、フキが優占する高茎・低茎草本群落に変化したものの、ニシノホンモンジスゲ、ミツバツチグリ等の林冠閉鎖時に増加した種が引き続き共存しており、種多様性の大きな低下は認められなかった。同様に、萌芽更新後に再び林冠閉鎖し始めた林分では一時的に増えた草本群落構成種が低被度で存続する一方で、小型の草原生種や鳥散布型の木本種の増加により種多様性は大きく低下していなかった。
 2023年調査でも2020年と同様の傾向であったが、クヌギ苗木の生育不良で林冠が閉鎖しないままの林分では耕地生・荒地生の雑草群落構成種が継続し、別群落タイプの移行はなかったことから、森林植生への移行には最初の林冠閉鎖が引き金になることが推察された。全般に、植林からの経過年数に伴う林床植物種数の増加速度が遅い林分が認められ、そのような群落ではニシノホンモンジスゲの定着の少なさに特徴づけられた。これには植樹前の土地利用履歴の違い(前作が畑作あるいは果樹作)が影響を与えている可能性が考えられた。


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