| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-185 (Poster presentation)
地球温暖化対策は,人類が取り組むべき課題として世界で広く認識されている.原生林や大規模な植林地など都市郊外の緑地は,CO₂の大きな吸収源として評価されているが,都市域の旧薪炭林や植林地,植栽などの緑地は小規模なものが多く,CO₂吸収の評価例は少ない.本研究では,都市域の緑地と位置付けられる玉川学園キャンパス内の7つのタイプの緑地を対象に,都市緑地の炭素循環特性を明らかにすることを目的とした.
調査対象は,上記キャンパス(東京都町田市)の優占種が異なる7林分である(コナラ-クヌギ林,コナラ林,コナラ-シラカシ林,スギ林,ヒノキ林,クスノキ林,モウソウチク林).各緑地にコドラート(10 m×10 m, n=4)を設け,炭素の吸収量として純一次生産量,循環量の指標としてリターフォール量,土壌呼吸量を推定し比較した.また,キャンパス内の各緑地タイプの植被面積をドローンによる空撮とその画像解析により算出し,キャンパス全体の炭素吸収能力を推定した.
結果,純一次生産量は,クスノキ林が最も高く,次いでコナラを含む3林分が高かった.一方,スギ林やヒノキ林などの植林は低かった.これらの結果は,優占種の樹種特性や日当たりなどの立地,林齢などが影響していたと考えられる.また,リターフォール量や土壌呼吸量は,各緑地によって異なる傾向が認められ、各緑地タイプの炭素収支や循環は大きく異なることを意味している.キャンパスの総面積は63 haで,林地および植栽の緑地面積は23 ha、総面積の36%であった.植被率は,コナラ-シラカシ林が最も多く(47%),次いでモウソウチク林(8%)やスギ林(6%)であった.玉川学園キャンパスの緑地の炭素吸収量は,約100 tC ha⁻¹ yr⁻¹と推定された.これは,日本における1世帯当たり年間炭素排出量の約100世帯分に相当する.これらの結果をもとに今後の都市緑地の管理のあり方についても議論する.