| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-186  (Poster presentation)

産学連携によるネイチャーポジティブの試み:工場緑地で土壌微生物の代謝機能を測る【O】
Industry-Academia Collaboration for the Nature-Positive Goal: Assessing Soil Microbial Metabolic Functions in Industrial Green Space【O】

*久保昌之(京都大学), 小山里奈(京都大学), 吉岡俊彦(京都大学), 原田充(パナソニック HD(株)), 徳地直子(京都大学)
*Masayuki KUBO(Kyoto Univ.), Lina KOYAMA(Kyoto Univ.), Toshihiko YOSHIOKA(Kyoto Univ.), Mitsuru HARADA(Panasonic Holdings Corporation), Naoko TOKUCHI(Kyoto Univ.)

 近年、ネイチャーポジティブ実現が国際目標として掲げられ、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せることが世界的な課題となっている。日本でも環境省が30by30目標を掲げ、従来保護地域に加え、企業有林などを対象に自然共生サイトとして認定を行っている。パナソニック株式会社は滋賀県草津市の工場内に「共存の森」と呼ばれる緑地を保有し、自然共生サイトにも登録されている。共存の森には、アベマキ植栽区、落葉広葉樹植栽区、池を含む水辺ビオトープ、常緑広葉樹林区、疎林区など、異なる植生タイプの区画がある。本発表では他の発表(P2-192、P2-177)とあわせて、産学連携による自然共生サイトを対象とした生態学的研究の事例を紹介する。
 本研究では、土壌微生物の代謝機能と地上植生に注目し、その関係を調査した。土壌微生物は森林の生態系プロセスに重要な役割を持つが、その生理機能の規定要因は十分に評価できていない。そこで、土壌微生物群集の生理的機能を評価する手法の一つであるエコプレート(Biolog社製)を用いて、炭素基質の利用機能を調査した。エコプレートでは31種類の有機炭素基質に土壌懸濁液を供給し、酸化還元色素により検出される微生物の代謝を吸光度として測定する。共存の森内の植生が異なる5区画(各4地点)で、2024年5月から12月まで月1回土壌を採取した。吸光度の測定期間は毎月2週間とし、指標としてAWCD(Average-Well-Colar-Development)を算出した。各区画で月毎のAWCD測定期間内最大値を比較すると、アベマキ植栽区と疎林区の値が、その他の区画より低い傾向となった。また、AWCDの測定期間内最大値と初期増加率及び、Shannon多様度指数を基にしたクラスター分析の結果、アベマキ植栽区、水辺、その他区画の3群に分類でき、各群で機能特性が異なることが示された。


日本生態学会