| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-189 (Poster presentation)
ナラ枯れはカシノナガキクイムシ(通称カシナガ)が媒介する樹木の伝染病である。カシナガの成虫は初夏に羽化し感染を広げるため、ナラ枯れ対策は羽化の初発日以前に行う必要がある。一方、初発日は地域により異なることが知られているため、対策には地域ごとの初発日を知る必要がある。近年関東地方では森林だけではなく、都市公園などでもナラ枯れが発生しているが、東北地方で開発された既存のモデルでは初発日が予測できていない。このため、本研究では関東地方のカシナガ初発日を予測するモデルを開発した。
初発日を予測するため、2021-2023年に初発日調査を行った。得られた初発日と積算気温・気象条件(降水量・積雪・太陽放射)・土地利用(市街地・耕作地・森林の割合)との関係を一般化線形モデル(GLM)・一般化線形混合モデル(GLMM)・機械学習モデル(Random Forest)で解析し、予測力の高い説明変数とモデルの組み合わせを探索した。また、2024年にも追加の初発日調査を行い、モデルの検証を行った。
解析の結果、学習データでのモデルのR2は機械学習で0.70、GLMで0.67、GLMMで0.61であり、ほとんどの調査地点の初発日を±20日以内で予測することができた。このため、ナラ枯れ対策はモデルの予測日より20日前を目安に行う必要があると考えられる。また、得られたモデルで2024年の初発日を地図化すると、積算温度だけが説明変数に選ばれたGLMでは関東地方全域の初発日を予測可能だったが、より多くの説明変数が選ばれたGLMMと機械学習は外挿のため、予測値の信頼性が低い場所が生じた。さらに2024年の初発日でモデルの検証を行うとGLM、GLMMと比べて機械学習モデルは大きく外れた予測を出すことが多かった。これらの結果から、行政等での利用には簡単に予測ができるGLM、より詳細な予測が必要な際にはGLMMなど状況に合わせてモデルを使い分けるとよいと考えられる。
本研究は、生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業(JPJ007097)(04021C2)により実施しました。