| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-190 (Poster presentation)
近年、多くの野生生物が人為的な環境の変化にさらされており、そうした変化に対する生物の応答が注目されている。アフリカ熱帯林に生息し、かつて「知られざる森のゾウ(Blake2006 西原訳)」と言われたマルミミゾウLoxodonta cyclotisも、気候変動や保全のための禁猟などによる影響を受け、農村環境に進出している。その結果、マルミミゾウによる農作物被害や生活被害が深刻な問題となっている。
一方で、農村環境を利用するマルミミゾウの生態については、直接観察の難しさなどを理由に、未解明な部分が多い。本研究では、ガボン共和国ロペ国立公園内の村に自動撮影カメラを設置し、撮影されたゾウの個体識別をおこなうことで、農村環境利用の季節性や農村環境を繰り返し利用するゾウの有無について分析をおこなった。
2023年9月22日から2024年8月24日までの撮影期間中に、47頭の成獣オス(オトナオスとサブアダルトのオス)、および、81頭の成獣メス(オトナメスとサブアダルトのメス)とそのコドモたちが確認された。オスはマンゴーの結実期である小雨季に多く撮影されたのに対し、メスは小雨季だけでなく、大雨季にも撮影日数の上昇がみられた。また、成獣128頭のうち、全撮影期間を通じて1日しか撮影されなかったゾウが52頭と最も多くみられた一方で、撮影日数が5日以上のゾウは、オス21頭、メス27頭の計48頭確認された。そのうちメスについては、主に小雨季に撮影された社会グループと、主に大雨季に撮影された社会グループの2タイプがみられた。大雨季の村にはマンゴーのような目立った餌資源がなく、その時期に繰り返し撮影されたゾウは、例えばオスを避けるためといった餌資源とは別の理由で農村環境を選択している可能性がある。こうしたマルミミゾウの農村環境利用戦術にどの程度人為的な影響が及んでいるのかを検討するため、今後は本結果と人為的な影響の少ない生息地におけるマルミミゾウの土地利用パターンを比較していきたい。