| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-191 (Poster presentation)
乾燥地は地表の40%以上を占め、多様な生態系サービスを通じて20億人以上の生活を支えている。近年、世界的な食肉や天然繊維の需要増加に伴う家畜増加が激しく、過放牧による土地の劣化が進行している。そのため、生態系保全と生産性を両立する利用方法が求められている。先行研究では、節足動物が土地利用の変化に敏感であるという特徴に着目し、節足動物の生物多様性変化を通して、農地と都市部における異なる土地利用の影響を評価した。結果、農地の一部を集約管理する方法が節足動物の保全に効果的で、経済活動による影響が軽減したほか、栄養循環や害虫の抑制など生態系機能を維持することが判明した。都市部では、強度によって、傾向が変化することがあったが、同じく一部土地を集約管理する方法の方が望ましいことも分かった。しかし、乾燥地における放牧に関して、上記を明らかにした研究はほとんどない。
本研究では、操作実験プロットを用いて、3つの放牧強度と2つの土地利用パターン(分散放牧/集約放牧)の組み合わせが地表徘徊性の節足動物の個体数や多様性に与える影響を評価した。
その結果、土地利用バターンを比較すると、節足動物のα・γ多様性は集約放牧が高かったが、β多様性は分散放牧のほうが高かった。放牧圧の増加とともに、分散放牧ではα・γ多様性が減少し、β多様性が増加していたが、集約放牧の多様性に変化はなかった。さらに、分散放牧では、放牧強度が高いほど植食性節足動物の個体数が減少する負の相関が見られた。一方で、集約放牧ではこれらの関係は確認されなかった。
この結果から、集約放牧はより多くの節足動物個体が保全できたため、他の生物種の保全にも有効だと考えられる。また、分散放牧の方では、プロット毎節足動物群集の構成が大きく異なるため、生態系全体としてより多様な生態系サービスが提供できる可能性も示した。