| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-192  (Poster presentation)

産学連携によるネイチャーポジティブの試み:地表徘徊性昆虫相から環境の多様性を測る【A】【O】
Industry-Academia Collaboration for the Nature-Positive Goal: Assessing Environmental Diversity from the data of ground beetle【A】【O】

*遠田実礼(京都大学), 德地直子(京都大学), 原田充(パナソニック HD), 久保昌之(京都大学)
*Mirei TODA(Kyoto Univ.), Naoko TOKUCHI(Kyoto Univ.), Mitsuru HARADA(Panasonic HD), Masayuki KUBO(Kyoto Univ.)

 工場緑地である「共存の森」は2011年より整備が継続され、2023年に自然共生サイト認定されるなど、保全手法とその成果に注目が集まっている(本大会P2-177やP2-186等)。今後の効果的な保全活動のためには定量的な情報に基づいた保全手法の確立が不可欠である。そこで本研究では、環境の変化に対して敏感である(佐藤ら, 2014など)オサムシ科甲虫に着目し、整備活動による環境の変化を推察することを目的とした。
 共存の森では目標の異なる区画を設け、K2-K4は落葉広葉樹の森、K5-K7は常緑広葉樹の森を目指し、K8には湿地を設け施業を進めた。2012-2014年には植被率を踏査、ならびに地表徘徊性昆虫をピットフォールトラップにより採集した。2024年にはK2、K4、K7において地表面温湿度の測定とピットフォールトラップでの採集を行った。
 結果として、植被率は時間とともに高木層及び草本層ともに増加傾向がみられた。オサムシ科甲虫は2011年には草地性種が多く見られたが、徐々に草地性種は現れなくなり、全体として森林性種が優占した。2013年には生息場所ジェネラリストの可能性がある種が突如優占し、何らかの攪乱の影響を受けた可能性があることが示唆された。以上より、共存の森は森林性種が好む環境へと変化したことが推察された。
 一方、2024年の採集個体数は2014年までに比べ少なく、このことは都市近郊林において地表徘徊性昆虫類は林齢の増加に伴って種数、個体数が減少する傾向にある(谷脇ら, 2004)という報告と一致した。
 さらに、樹木が優占しているK2、K7と草本類が優占しているK4の間に地表面温度に有意な違いが認められた。また、地表面湿度は全ての調査区で有意差が認められた。環境要因がオサムシ科甲虫の種構成に影響を及ぼしている可能性があるが、今後さらなる調査が必要である。


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