| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-194  (Poster presentation)

外来ザリガニの不妊化手法確立と新たな改善策:抱卵阻害技術の可能性を探る【A】【O】
Establishing and improving method for sterilizing invasive crayfish: Exploring the potential of brood care inhibition technology【A】【O】

*齋藤淳也, 田中一典, 根岸淳二郎(北海道大学)
*Junya SAITO, Kazunori TANAKA, Junjiro NEGISHI(Hokkaido Univ.)

ザリガニは外来種としてほとんどの大陸の淡水域に侵入が確認されている分類群の一つであり、その侵入は広い分類群に負の影響を及ぼすことが知られている。これ以上の被害防止のため、世界中で様々な防除手法が考案・効果検証されており、不妊個体の再放流による駆除は数少ない有望な手法として注目されている。しかし既存の不妊化手法は技術的な課題(対象がオスに限定、高価で専門的な機材を使用)を抱えており、これを補う必要がある。ザリガニのメスは腹肢と呼ばれる、腹部にある4対の付属肢を用いて抱卵し卵を孵す。この腹肢を除去すれば、ザリガニは抱卵能力を失うことが想定される。この理論はメスを対象とする上に、安価な道具で容易に実施できる好適な不妊化手法に応用できる可能性を秘めている。本研究では、北米原産の侵略的外来種であるウチダザリガニ(Pacifastacus leniusculus)のメスを対象に、腹肢除去が不妊化手法として有効であるかどうかを評価した。この対照飼育実験は、2023年7月から2025年1月にかけて、北海道札幌市の豊平川で採取したザリガニを用いて実施された。腹肢除去による抱卵の阻害効果と、技術応用に不可欠な要素である腹肢除去後の生存率、脱皮までの時間、再生量を調査した。また簡易化した手法(対の片側のみ除去)の効果と、抱卵に失敗した卵の生存率も共に調査した。その結果、腹肢除去は抱卵能力を著しく低下させ、除去後1年目の繁殖期には97.0%、2年目の繁殖期には100.0%の減少が確認された。メスは産卵直後にほとんどの卵の抱卵に失敗し、2週間以内に全ての卵を失った。また生存率や生理機能には影響を及ぼさず、脱皮による腹肢の再生も制限されること(1年目に3.5%、2年目に40.2%)が明らかになった。簡易手法の不妊効果は不十分であった。抱卵失敗卵は主に母ザリガニに捕食され、魚にも捕食された。本研究の結果は、腹肢除去が侵略的外来種であるザリガニの有望な不妊化手法となりうることを示している。


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