| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-195 (Poster presentation)
果樹園は、低木や草原が混在する緑地環境と見ることができ、林縁性鳥類や草原性鳥類などに生息環境を提供する可能性がある。鳥類は、害虫捕食などの生態系サービスを果樹園へ提供する一方、一部の種は哺乳類と同様に果樹を加害することで、経済面で人との軋轢が生じている。果樹園の生物多様性に配慮しつつ加害対策を行うには、果樹への加害種と周辺の生息種を区別して把握する必要がある。本研究の目的は、ワイン用ブドウ園を対象にカメラトラップ(CT)法を用いて、果樹を加害する鳥獣種を把握すること、また定点センサス法を用いて、圃場内全体の鳥類分布状況を把握することとした。
調査地は長野県上田市に位置するワイン用ブドウ園で、センサーカメラによるCT調査を、2022年9-11月に11地点で、2023年6-11月に17地点で実施し、収穫前における鳥獣検出個体数中の加害個体数や、加害率などを算出した。鳥類の定点センサス調査は、2022年9-10月、2023年6-10月に計8ヶ所で行い、出現個体数に占める加害種の割合などを分析した。
2年間のCT調査から、鳥類16種と哺乳類8種が確認され、定点センサス調査からは鳥類43種が記録された。加害行動が確認された鳥類5種のうち、ハシブトガラスは加害率が高い一方で検出個体数は少なく、定点センサスでも出現は少なかった。ムクドリの加害率は50%未満で、出現地点も偏在していたが、CTや定点センサスに共通して個体数が多く、本調査地での主要な加害種と考えられた。また果樹への加害報告は少ないキジによる加害が両年ともに検出された。一方、果樹加害種とされるヒヨドリは、圃場内で多く観察されたが、CT法で加害は検出されなかった。哺乳類の加害(4種)は圃場内の広範囲で確認され、ハクビシンで加害率が相対的に高く、タヌキなど他種では検出数に対して加害率は低かった。加害鳥獣種の生態を鑑みつつ、果樹加害が生じやすい地点の特徴を明らかにし、重点的な対策を行うことが重要だろう。