| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-196  (Poster presentation)

生態系が変化している湿性草原での持続的な茅利用とステークホルダーの関わり方の検討【O】
Sustainable thatch use and stakeholder engagement in wet grasslands in a changing ecosystem【O】

*高橋栞(東京大学), 西廣淳(国立環境研究所)
*Shiori TAKAHASHI(University of Tokyo), Jun NISHIHIRO(NIES)

自然資源を利用する文化は環境変化に影響を受けやすく、その持続可能性は資源の供給状況と管理や利用といった社会的な仕組みに左右される。近年、環境変化に伴う生態系の変化が報告されているが、それが生物資源に依存する文化や社会システムに与える影響を調べた例は少ない。
日本の茅葺き文化は、草原に生育するイネ科植物に依存する社会生態システム(SES)の1つである。茅場では環境変化により植生が変化し、資源の質や量に影響を及ぼす可能性がある。これにより、茅場の利用が減少し、管理の縮小や放棄が進むことで、さらに環境が変化する負のフィードバックが生じる恐れがある。本研究では、生態系の変化が茅の利用に及ぼす影響を明らかにし、茅場管理に不可欠な火入れの実施状況を整理することを目的とした。
茨城県の妙岐ノ鼻湿原を対象に、過去40年間の植生モニタリングデータと、茅葺き職人や茅刈り業者へのインタビュー調査を組み合わせて解析を行った。インタビューをもとに、湿原の植物種を茅としての有用性に応じて4つのランク(A〜D)に分類し、この指標を用いて植生データを再解析した。その結果、茅の主要構成種であるランクA種の減少と、茅の質を低下させるランクC種の増加が確認された。特に、妙岐ノ鼻で優占し高品質な茅に欠かせないカモノハシが減少し、代わりに背丈が低く葉が多いため茅として扱いにくいとインタビューで言及されたランクC種のチゴザサやカサスゲが増加していた。
さらに、茅場の管理を持続的に行うには、社会システムの構築も重要である。本研究では、茨城県及び千葉県の火入れ事例を調査し、火入れの実態、土地所有形態、ステークホルダー、課題等を整理・比較した。この比較を通じ、茅場のSESをレジリエントに維持するために必要な要素や管理のあり方を考察した。


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