| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-197 (Poster presentation)
氾濫原は豊富な植生や一時的水域が形成される領域であり、淡水魚類の繁殖や避難場所として利用され、生活史や種多様性を支える基盤的構造である。しかし、都市化や河川改修の進行により氾濫原の多くは河川から隔絶され、河道内に僅かに残存するのみである。特に都市部の中小河川は川幅が狭く、護岸によって流路が固定化されており、河道内に氾濫原的環境が占める割合は小さい。そのため、中小河川における河原や砂州といった土砂の堆積域や部分的な拡幅部は、残存する氾濫原的な環境として生態学的に重要な役割を果たしている可能性が高いが、知見の集積は不十分である。本研究では、低水路の横断構造を尺度として札幌市の中小河川を分類し、魚類群集の種数、個体数や種組成の比較を行うことで、魚類群集に対する低水路構造の影響を検証した。
札幌市の8河川15地点に各30mの調査区間を設置し、2023年7~9月に魚類調査及び環境計測を実施した。電気ショッカーで魚類を捕獲し、種同定を行い個体数及び体長を記録した。環境要因として低水路幅、水面幅、水深、流速、底質サイズ、植生カバー率を計測した。低水路は平常時に河川水が流れうる河道内の領域、水面幅は低水路の中でも河川水が存在する領域の幅とした。本研究では氾濫原環境の豊富さの指標として、低水路全体の幅を水面幅で除したR/W値を用いて、調査地点をWide、Medium、Narrowの3群に分類し環境要因と魚類群集の特徴を比較した。
河川環境の比較の結果、Narrowグループは区間内の水深が浅かったほか、植生カバー率、水深の変動係数が低かった。植生カバー率と水深の変動係数は魚類の種組成に影響していた。また、R/W値が高くなることで、魚類の種数、個体数は増加する傾向にあった。これらの結果から、水面幅に比べて低水路幅が広く取られた河川では、河畔植生の発達や瀬淵の形成が進み、多様なハビタットが作られることで、魚類の種数・個体数の増加につながると考えられる。