| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-198  (Poster presentation)

バイオロギングによる海洋の課題解決:Internet of Animals (IoA)の発展に向けて【O】
Resolving Marine Issues Using Biologging: Towards the Development of the Internet of Animals【O】

*岩田高志(神戸大学), 赤松友成(早稲田大学)
*Takashi IWATA(Kobe University), Tomonari AKAMATSU(Waseda University)

 人類は現在、海洋温暖化、海洋ごみ、化学汚染、人工騒音など、さまざまな海洋課題に直面している。これらの課題解決のため、調査船、漂流ブイ、リモートセンシングなどを用いた海洋観測が行われているが、技術的・経済的な制約により観測の空白地帯が存在するのが現状である。
 バイオロギングは、動物に装着した機器を用いて行動を計測する手法であり、特に海洋動物の行動生態の研究において不可欠なツールとなっている。この手法は生態研究にとどまらず、海洋観測の新たなプラットフォームとして海洋課題の解決に役立つ可能性が示唆されている。バイオロギングを用いた海洋観測の長所として、i) 水平方向および鉛直方向に広がりを持つ3次元データ、ii) 時空間的に個体に着目した連続したデータ、iii) 海氷下や荒天時など人(船舶)が立ち入れない環境のデータを取得できる点が挙げられる。一方で、i) 観測範囲が動物の行動に依存し選択できない、ii) 長期的な継続調査が少ない、iii) 装着できる動物個体数が限られるため取得データが限定的である、といった課題も存在する。これらの長短を踏まえ、バイオロギングを活用した海洋観測が、海洋温暖化のモニタリング、気象予測、海洋ごみや化学汚染の把握、人工騒音の影響評価、海洋保護区の管理、漁業による混獲問題、海洋高次捕食者の生息地に対する人為的攪乱の評価など、さまざまな海洋課題の解決に貢献できる事例を示す。単独では不十分なものの、調査船やリモートセンシングと組み合わせることで、バイオロギングが既存の知識の空白を埋めると考えられる。
 本研究では、バイオロギングによる海洋課題の解決に向けた新たな取り組みとして、バイオロギング機器を装着した動物からネットワークを介してリアルタイムデータやオンラインデータベースに蓄積された情報を取得する「Internet of Animals (IoA)」の将来を展望する。


日本生態学会