| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-199  (Poster presentation)

生き物調査アプリは人の環境保全意識・行動を変えるのか?【A】【O】
The Impact of a Citizen Science App on Environmental Conservation Consciousness and Behavior.【A】【O】

*辻野建貴(京都産業大学), 多賀洋輝((株)バイオーム), 杉山実優((株)バイオーム), 西田貴明(京都産業大学)
*Tatsuki TSUJINO(Kyoto Sangyo Univ.), Hiroki TAGA(Biome .Inc), Miyu SUGIYAMA(Biome .Inc), Takaaki NISIDA(Kyoto Sangyo Univ.)

近年、市民科学が保全生態学の分野で注目されている。この注目を更に加速させるツールの一つとして挙げられるのが、「iNaturalist」や「Biome」といった生き物調査アプリである。これら生き物調査アプリの登場により、市民科学への参加ハードルは下がった。しかし、日本国内において、自治体スケールにおける生き物調査アプリを活用した市民科学の生き物調査イベントの有効性を報告した事例は数少ない。そこで、本研究では三重県いなべ市にて、(株)バイオームの「Biome」を用いた産学官連携による市民科学イベントを実施した。本市民科学イベントにて収集されたデータについて報告する。本イベント期間中に収集した投稿数は累計4757件であった。イベント実施前のいなべ市内での月別平均投稿数と投稿者数はそれぞれ約157投稿、28人であったが、イベント実施後の月別平均投稿数と投稿者数はそれぞれ690投稿、57人へと増加した(2024年11月30日時点)。さらに、本市民科学イベントの参加者(アプリ利用者)といなべ市の訪問者(非利用者)を対象に自然環境に対する意識や行動頻度についてアンケート調査を実施した。この結果から、市民科学イベントの参加者特性を把握するとともに、リーチするべき市民層について考察を行った。また、アプリ利用者と非利用者の間には、自然環境に対する意識・行動頻度に違いがあることを明らかにすることができた。さらに、自然環境に対する意識や行動頻度の経時的な変化を追跡した結果、行動頻度に関して正の経時的な変化が見られた一方、アプリ利用率と行動頻度について相関関係は見られなかった。本研究より、自治体スケールにおける市民科学の生き物調査イベントが提供するデータ収集に関する知見を明らかにすることができたとともに、生き物調査アプリがアプリ利用者の自然環境に対する行動頻度に正の影響を与える可能性を示唆することができたと考える。


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