| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-200  (Poster presentation)

いなべ市の伝統的水利施設「マンボ」が水生生物に及ぼす影響【A】【O】
Effects of traditional agricultural irrigation facility "Mambo" in Inabe City on aquatic animals【A】【O】

*池ヶ谷咲妃, 西田貴明(京都産業大学)
*Saki IKEGAYA, Takaaki NISHIDA(Kyoto Sangyo University)

『マンボ』とは、表流水から離れた地域や水利権を持たない地域において農業用水を確保するために作られた暗渠であり、地下水や浸透水を利用した灌漑施設として発展してきた。しかし、マンボに関する自然科学的な研究は限られており、その生息環境の特性や生物多様性への寄与は明らかにされていない。本研究では、三重県いなべ市北勢町奥村・新町地域に現存するマンボに着目し、マンボ水路と三重用水や河川を水源とする一般的な農業用水路を比較することで、マンボ水路が提供する水生生物の種数・個体数と環境要因を明らかにすることを目的とした。文献調査および地域住民へのヒアリングを実施し、20 か所のマンボを水源とする水路を特定した。次に、2024 年 4 月 22 日から 8 月 25 日にかけて、マンボ水路 15 地点と一般的な水路 13 地点を対象に、計 45 回の生物調査と 9 項目の環境データの測定を行い、統計解析を用いて比較を行った。その結果、マンボ水路では一般的な水路に比べ、水生生物の種数および個体数が有意に多く、特に魚類、昆虫類、甲殻類の生息が豊富であることが確認された。また、マンボの各地点において種の分布や環境条件に多様性が認められ、これらの種数・個体数の多寡には底質、水深、植生の有無が大きく影響していた。さらに、マンボ水路には自然度の高い二面コンクリートや素掘り構造が多くみられたのに対し、一般的な水路では三面コンクリートが主流であり、人工的な構造が生息環境を制約する要因となっていた。これらの結果から、マンボ水路の自然度の高い水路構造が水生生物の種数や個体数の多様性を支え、地域の生物多様性の維持に寄与していることが示された。本研究の成果は、マンボ水路の生態系保全および地域資源としての持続的活用に向けた基礎的知見を提供するものであり、環境保全・伝統知の継承の観点からも重要である。


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