| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-203 (Poster presentation)
ハタネズミは草地や農地に生息し、根菜類、野菜類、果樹の幹等を食害し、水田の畔に穴を開ける等の被害をもたらす。その一方でチョウゲンボウ、ノスリ、フクロウ等の猛禽類に捕食される。ハタネズミによる農業被害の軽減には猛禽類による被食率を高めることが重要なため、ハタネズミが選好する環境を解明する必要がある。しかし、そのためには生け捕り罠の設置が相当数必要なため、簡便な個体密度推定法の確立が望まれる。そこで、ハタネズミの坑道の穴の数と、その穴の上に縦5cm×横5cmのアクリル板を置き、それが移動することで確認される利用中の穴の割合について、捕獲数との関係を明らかにした。そしてハタネズミの生息と猛禽類からの発見率に関わる植生構造との関係も明らかにした。これらから、ハタネズミの簡便な生息密度推定法の評価と、選好する環境について考察した。2020年から2024年に長野県中野市のリンゴ果樹園、モモ果樹園、水田、遊休農地の4環境で、3月~7月に毎月24個の生け捕り罠を6晩設置し、捕獲数を確認した。同時に坑道の穴のカウントと最大20枚のアクリル板を最長で7日間設置し利用中の穴の割合を確認し、また草本被度、草本群落高、低木被覆度、低木樹高を調査した。そして、これら4環境6項目の調査結果と捕獲数との関係を一般化線形モデルにより解析した。その結果、利用中の穴の割合、坑道の穴の数、草本被度が増加すると、ハタネズミの捕獲数が有意に増加した。アクリル板の設置による利用中の穴の割合は捕獲数と強い相関を示し、簡便な個体密度推定法として有用であることが明らかになった。そして坑道の穴の数も個体密度推定に利用可能であることが示された。また本調査地においては、草本被度が高い環境をハタネズミが選好することが明らかになり、猛禽類からの被食率を高めるためには、草本被度を大きく減少させない程度の捕獲スペースの創出が必要と考えられた。